雁丸(がんまる)の原作代読映画レビュー

原作読んで映画レビューするよ!

映画『あなた、そこにいてくれますか』と原作小説『時空を超えて』(ネタバレありの感想)

 今回紹介する作品は、

映画あなた、そこにいてくれますかです。f:id:nyaromix:20171031221926j:plain

【あらすじ】

優秀な小児科医のスヒョンは、30年前に亡くした恋人・ヨナの事を忘れられずにいた。ある時、医療ボランティアで訪れたカンボジアで赤ん坊を救ったスヒョンは、お礼として老人から10錠の錠剤が入った小瓶を受け取る。その錠剤を服用してみると、なんと彼は30年前の1985年にタイムスリップしていた。そこで若き日の自分に出会ったスヒョンは、片割れにヨナの死が近いことを伝えてしまう。若きスヒョンはヨナの死を回避しようよと奔走するが、現代を生きるスヒョンには別の女性とともに生んだ最愛の娘がいた…

 

 【原作】

原作はフランス人作家ギヨーム・ミュッソさんの小説『時空を超えて』です。

時空を超えて (小学館文庫)

時空を超えて (小学館文庫)

 

 小学館から出版されていた『時空を超えて』の文庫本は今は絶版となっているのですが、この度の映画の公開に合わせて『あなた、そこにいてくれますか』のタイトルで潮出版社から復刊しています。(映画版と同じタイトルですが映画のノベライズではなく、原作通りの内容です。)

あなた、そこにいてくれますか (潮文庫)

あなた、そこにいてくれますか (潮文庫)

 

 原作者のギヨーム・ミュッソは元々高校教師だったのですが、処女作『Et,Apr`es…』で鮮烈なデビューを果たし、一気にベストセラー作家に上り詰めた人物です。

本作は彼が高速道路でガードレールに激突する交通事故を起こし、死というものを深く考えるようになったことがきっかけで生まれた作品でだそうです。

 

ミュッソ氏は自身の作品を映像化することにはとても慎重で、ヒット作を次々と発表するベストセラー作家であるにもかかわらずこれまで映画化された作品は『Et,Apr`es…』を原作にした『メッセージ そして、愛が残る』のみです。ミュッソ氏の眼鏡にかなったスタッフやキャストでないと映画化に至らないそうなので、本作はその段階をきちんとクリアした一流の製作陣によって作られた作品だと言えます。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは、『キッチン〜3人のレシピ〜』や『結婚前夜マリッジブルー〜』などを手掛けたホン・ジヨン監督です。

キッチン~3人のレシピ~ [DVD]

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 ホン監督は『殺人の追憶』のポン・ジュノ監督や『八月のクリスマス』のホ・ジノ監督などを輩出した韓国映画アカデミーの14期卒業生で、夫は韓国版映画『アンティーク 西洋骨董洋菓子店』を手掛けたミン・ギュドン監督です。

 女性ならではの細やかな視点で、ラブロマンス映画を中心に、安定した良作をコンスタントに撮っており、ヒット作を連発しています。

本作では監督の他に脚本・脚色も担当しています。

 青年期のスヒョンを演じたのはピョン・ヨハンさん。ピョンさんは兵役中に原作本を読んでいたそうで、除隊後に演技を始め、しばらく経ってから本作出演のオファーを受けたそうです。思い入れのある作品だけあって、若きスヒョンの苦悩を繊細な演技で見事に演じ切っていました。

50代のスヒョンを演じたのはキム・ユンソクさん。映像化に慎重なギヨーム・ミュッソ映画化を許諾したのは『チェイサー』での彼の演技を見たからだそうで、この人無しでは映画化は成し得なかったといえます。ギヨーム氏の期待通り、成熟した演技で映画全体の空気感を作り出しており素晴らしかったです。

 

【私的評価】

85点/100点満点中

 原作はフランス人作家がアメリカを舞台に書いた小説なのですが、舞台を韓国に移したことによる違和感をまるで感じさせず、原作へのリスペクトを込めながらしっかりと映像化されていました。

作中のタイムリープによる物語上の矛盾も少々あるものの、人間ドラマとサスペンスを見事に合わせた巧みな構成になっていました。

 

 

 

 

 

以下ネタバレあり

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映画『ナラタージュ』と原作小説『ナラタージュ』(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は

映画ナラタージュです。 

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【あらすじ】

映画配給会社に勤める工藤泉は、ある雨の日学生時代のことを思い出していた。大学2年の時、泉の元に一本の連絡が入った。電話の主は高校時代の演劇部の顧問だった葉山であった。葉山は現役部員の少ない演劇部のために、学園祭での公演に協力して欲しいと泉に申し出た 。戸惑う泉であったが、申し出を受け入れ演劇部に協力することになったが、泉と葉山の間には教師と教え子の関係を超えた過去があった…

 

【原作】

原作は島本理生さんの同名小説『ナラタージュ』です。 

ナラタージュ (角川文庫)

ナラタージュ (角川文庫)

 

 本作は島本さんが20歳の時に執筆した恋愛小説で、「この恋愛小説がすごい!2006年版」や「本の雑誌が選ぶ上半期ベストテン」で1を獲得し、山本周五郎賞にもノミネートされた作品です。

小説の主人公である泉同様、島本さんの大学在学中に執筆された本作は、ヌーヴォーロマン(アンチロマン)作家のマルグリット・デュラスに強い影響を受けて書かれた作品だそうで、特に『愛人/ラマン』で描かれていた“少女期の終わり”の描写にインスパイアを受けたそうです。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『世界の中心で、愛をさけぶ』や『パレード』などを手掛けた行定勲監督です。

パレード (初回限定生産) [DVD]

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 本作は行定監督が『世界の中心で、愛をさけぶ』の後から映画化を打診されていた作品で、実に12年間の構想期間を経てついに映像化が実現した作品です。

漫画原作のピュアな恋愛映画がヒットしていく中で、シリアスな風合いの強い本作の映画化は難航していたそうですが『ピンクとグレー』で行定監督とタッグを組んだ小川真司プロデューサーの「葉山先生役を松本潤にしてみてはどうか」という提案を機に、一気にプロジェクトが進んでいったそうです。

行定監督としては『クローズド・ノート』以来の純粋な恋愛映画という位置づけになるそうです。

主人公の泉を演じたのは有村架純さん。行定監督が「自覚はないが実は魔性の女」と語る泉にぴったりのキャスティングで、自分の思いが実らないことを感じながらも先生のことを思い続ける強さを持った女性を好演していました。

葉山先生を演じた松本潤さんは普段のアイドルらしい輝きを抑え、憂いさの漂う放っておけない男性を見事に体現していました。何より松本さんがこれまで演じてきたキャラクターのどれよりもエロさが際立っており、眼鏡をかけてあの弱々しい表情をされると男でもドキッとしてしまうほどでした。

 

【私的評価】

75点/100点満点中

ポップで爽やかな恋愛映画がトレンドになりつつある昨今の映画業界の中で、本作は大人のビターな恋愛をメインテーマにしておりとても好感が持てました。

原作小説の要所をちゃんと抑え、物語の核となる男女の曖昧な関係もきちんと描いていました。特に男性監督が撮ったということもあって、男のどうしようもなさはかなり際立っています。

ただ、恋愛映画としてはシリアスさが強い作品なので、鈍重な展開が2時間強続くのはちょっとしんどかったです。

 

 

 

 

 以下ネタバレあり

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映画『僕のワンダフル・ライフ』と原作小説『野良犬トビーの愛すべき転生』(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は

映画僕のワンダフル・ライフです。

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【あらすじ】

短い犬生を終え、再び子犬としてこの世に戻ってきたベイリーは、ある猛暑の日、車の中に閉じ込められぐったりとしているところをイーサンという少年に救われる。イーサンはベイリーを飼い犬にし、遊ぶ時も寝る時もほとんどの時間を共に過ごしていた。イーサンは成長し、ハンナという恋人もできたが、彼の家族の問題や自宅の火事など様々な問題に巻き込まれ、ハンナとも別れることになってしまった。ベイリーも次第に年老いていき、老衰していったベイリーはこの世から旅立つことになった。しかしベイリーが目を覚ますと、彼はシェパードに生まれ変わっており、警察犬としての犬生が始まるのだった…

【原作】

原作はW・ブルース・キャメロンさんの小説『野良犬トビーの愛すべき転生』です。(原題は『A Dog's Purpose』直訳すると“犬の目的”) 

野良犬トビーの愛すべき転生 (新潮文庫)

野良犬トビーの愛すべき転生 (新潮文庫)

 

 本作は、2010年にアメリカで発表されニューヨークタイムズのベストセラーランキング第1位の座を1年間キープし続けたベストセラー小説です。

2012年には続編にあたる『A Dog's Journey(直訳:犬の旅)』が出版されています。

作者のW・ブルース・キャンベルさんは全米で人気のコラムニストだそうで、これまでに出版した本は小説よりもコラムやエッセイのほうが多いようです。

彼の書く小説にはコラムニストらしいユーモアが交えられており、面白い言い回しや、なかなか思いつかなかった着眼点が多分に盛り込まれいます。

本作が執筆されたきっかけは、キャンベルさんの恋人であるキャスリン・ミションさんが、初めて買った愛犬を失い失意の中にいる様子を見て、心の痛みを感じたことがきっかけだったそうです。キャンベルさんはミションさんにこの物語を誰よりも先に利かせたそうで、そのストーリーを聞いた彼女は号泣したそうです。そして彼女は本作の脚本を担当しています。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンをとったのは『ギルバート・グレイプ』や『サイダーハウスルール』などを手掛けたラッセ・ハルストレム監督です。 

HACHI 約束の犬 (Blu-ray)

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 本作はラッセ・ハルストレム監督にとって『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』『HACHI 約束の犬』に続く3本目のワンちゃん映画になります。

ハルストレム監督は実生活でも犬を飼っている愛犬家だそうで、本作の“生まれ変わり”という超現実的な設定以外は、犬の行動原理をリアルに描写しようと努めたそうです。

本作の主人公の犬たちの声を当てたのはジョシュ・ギャッドさん。『アナと雪の女王』でサイドキックのオラフの声を演じ、実写版『美女と野獣』ではル・フウ役を演じたコミカルな演技に定評のある役者さんです。彼の声はとても面白く、無垢で純粋な犬たちの声にぴったりと合っていました。

老年のイーサンを演じたのはデニス・クエイドさん。ハルストレム監督とは映画『愛に迷ったとき』以来、20年ぶりのタッグになります。円熟した味のある演技で、どこか物寂しさのある男を好演していました。

本作に登場するワンちゃんたちは、いずれも演技経験のあるタレント犬ではなく、アニマルレスキューの団体や、シェルター、ブリーダーの伝手を探して見つけた犬たちだそうです。ですが、どのワンちゃんたちも自分の役を見事に演じきっており、経験のなさは感じませんでした。(ですが、警察犬の救助の撮影シーンを巡って動物愛護団体とトラブルになったことはあったそう…)

 

【私的評価】

74点/100点満点中

本作はワンちゃんが4回の転生をするのですが、犬が死にゆく描写には涙腺が刺激され、3回ほど泣きそうになりました。

原作から省略されている描写が多々あり、小説版と比べるとベイリーの苦難が多少マイルドになっている気はしましたが、その分彼が人生ならぬ犬生について考える哲学的要素が原作よりも増幅していて面白かったです。

個人的にはもう少し転生の意味が感じられる演出がほしかったなと感じる部分もありました。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレあり

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映画『ユリゴコロ』と原作小説『ユリゴコロ』(ネタバレありの感想)

 

今回紹介する作品は

映画ユリゴコロです。

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【あらすじ】

田舎でカフェを営む亮介は、婚約者の千絵とともに幸せに暮らしていた。しかし、亮介を男手一つで育ててくれた父が余命幾ばくもない事が発覚し、更にはパートナーの千絵がある日突然姿を消してしまう。度重なる不幸を受け入れられずにいた亮介は、実家の押し入れにあった一冊のノートを見つける。その本の表題には「ユリゴコロ」と書かれており、中にはある殺人者の半生が記されているのだった…

【原作】

原作は沼田まほかるさんの同名小説『ユリゴコロ』です。

ユリゴコロ (双葉文庫)ユリゴコロ (双葉文庫)

 

 本作は2011年に発表され、本屋大賞このミステリーがすごい!に選出され、2012年には大藪春彦賞まで受賞した作品です。

沼田まほかるさんは、50代で発表した『九月が永遠に続けば』でデビューした遅咲きの作家で、湊かなえさんや真梨幸子さんらと並んで“イヤミスの女王”と呼ばれています。

沼田さんの作品にはインモラルなキャラクターが多く登場し、その歪んだ価値観を持つキャラクターの視点でストーリーが進行していくので、不快に感じられる読者もいるかもしれません。しかしそのような共感の難しい登場人物を、ただの理解不能な存在として描かず、きちんと愛を持って描いているので、歪んだ人々がふとした瞬間に見せる人間味や、彼らが抱くささやかな希望に胸を震わされるのです。

10月28日には同原作者の映画『彼女がその名を知らない鳥たち』公開されるので、要チェックの作家です。(ちなみにこちらの映画にも松坂桃李さんが出演しています。)

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンをとったのは『君に届け』や『心が叫びたがってるんだ』などを手掛けた熊澤尚人監督です。 

君に届け (Blu-ray)

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 熊澤監督は青春モノの映画を多く手掛けられている監督で、青春時代の心の機微を描く手腕に定評があります。本作はかなりイレギュラーではありますが、ある女性殺人者が経験する初めての青春の物語であるとも受け取れる気がします。

もちろん、ラブストーリーは熊澤監督にとってお得意のものなので、監督がこれまで数多く描いてきた不器用な主人公の情愛描写が本作でもしっかり演出されています。(本作は不器用ってレベルじゃない気もしますが…)

殺人を繰り返す女性・美紗子を演じたのは吉高由里子さん。人が死ぬこと以外のすべてに無感動であったヒロインが、徐々に人間らしさを手に入れていく様を絶妙なバランスで演じきっており素晴らしかったです。

現代パートの主人公を演じたのは松坂桃李さん。殺人鬼の手記を読み、自身の内面にも変化が表れていくキャラクターを、冷淡さと狂気を交えながら演じており、達者な役者さんだと感じました。

 

【私的評価】

62点/100点満点中

原作よりもヒューマンドラマ性に重点を置いて映像化されており、主要キャラクターたちが自分の宿命と対峙する展開が映画オリジナルで用意されていて良かったです。

また、原作よりも人間関係の相関を簡略化している分、物語が把握しやすくなっていました。

ですが、原作から大幅にカットされているミステリー要素と、終盤からの都合の良すぎる展開は少しいただけませんでした。

 

 

 

以下ネタバレあり

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映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』と原作漫画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(ネタバレありの感想)

今回の紹介する作品は

映画奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』です。

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【あらすじ】

奥田民生の生き方に憧れる33歳の雑誌編集者コーロキ。ライフスタイル雑誌・マレの編集部に異動になったコーロキは、慣れない職場に四苦八苦しながらも、奥田民生のような編集マンになろうと意気込んでいた。そんなある日、仕事の関係で出会った天海あかりに一目惚れしたコーロキは、なんとかあかりに良いところを見せようと奔走するのであった…

 

【原作】

原作は渋谷直角さんの同名漫画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』です。 

奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール

奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール

 

 渋谷直角さんは『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生『空の写真とバンプオブチキンの歌詞ばかりアップするブロガーの恋』など、サブカル界隈もといオシャレさん達の闇の部分を描く事に定評のある作家です。

渋谷直角さんの漫画に登場するキャラクターの多くは何かしら強い承認欲求を抱えているのですが、その承認欲求を満たすやり方が空回りしていたり、自分のセンスの限界にぶち当たったりと、なんとも痛々しいものばかりです。

しかしその痛々しさが人間らしさでもあるので、サブカル系やオシャレ系でない人が読んでもズシンとくる内容になっています。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『モテキ』や『バクマン。』を手掛けた大根仁監督です。

モテキ Blu-ray豪華版(2枚組)

モテキ Blu-ray豪華版(2枚組)

 

 大根監督は原作発売当初から渋谷直角さんに映画化の打診をしていたそうで、『モテキ』のような30代男女ラブコメがまた撮りたいという思いと、自分の得意なジャンルにぴったり合った原作に出会ったことから監督を務められたそうです。

大根監督といえば『モテキ』や『バクマン。』『SCOOP!』など漫画雑誌や情報誌などの編集部を描くことを得意としていますが、今作も編集部を舞台にストーリーが展開されています。

主人公コーロキを演じたのは妻夫木聡さん。 奥田民生に憧れながら未だ何者にも慣れておらず、もがき続ける男を見事に好演していました。

ヒロイン天海あかりを演じたのは水原希子さん。若干あざとすぎる気もしましたが、恐ろしく可愛い女性をきちんと体現していて、何よりメチャクチャ体を張ったラブシーンを幾多も演じており、映画全体をしっかり引っ張っていました。

個人的には、ライター三上ゆうを演じた安藤サクラさんがツボで、何故だかずっと見ていたかったです。 

 

【私的評価】

75点/100点満点中

恋愛コメディながらヒロインの内面をはっきりと明かさず、ほぼ男性主観で物語が進むので、主人公をはじめとする男たちの痛々しさを共有でき、大変面白かったです。

特殊な面のあるヒロインですが、男たちにとっては世の女性に対して普段から思っている「女の人って分からない」感がしっかりと表現されていて、主人公の気持ちに同調しやすい作りになっていました。

ヒロインがきちんと魅惑的に映っている時点で、この映画の大半は成功している気もします。

男性心理への共感はあったものの、主人公の仕事に対してのスタンスが原作より共感し辛くなっていたのが少々残念でした。

 

 

 

 以下ネタバレあり

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映画『ワンダーウーマン』と原作コミック『ワンダーウーマン』(ネタバレあり)

今回紹介する作品は

映画ワンダーウーマンです。

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【あらすじ】

アマゾン族と呼ばれる女性だけが暮らす島セミッシラ。その島の女王の娘ダイアナは、アマゾン族の女たちに育てられ、屈強な戦士として育てられてきた。そんなある日、セミッシラに他国から飛んできた飛行機が不時着する。その飛行機を操縦していたのはアメリカ外征軍の大尉・トレバーという男であった。ドイツ軍の侵攻によって世界中で数多の犠牲者が出ていることを知ったダイアナは、軍神アレスを倒し戦争を終わらせるためトレバーと共にセミッシラを旅立つのだった…

 

【原作】

原作はウィリアム・モールトン・マーストンのコミックが祖となり、現在までシリーズ化されているアメリカンコミックワンダーウーマンです。

米国では1941年から現在に至るまで刊行されているシリーズですが、日本ではワンダーウーマン単体の単行本はまだ4冊ほどしか発刊されていません。逆に言えば、今からコミックを集めても十分揃えきれる作品ではあります。 

以下の4作が、現在日本語訳され刊行されているワンダーウーマン単体のコミックスです。

ワンダーウーマンというキャラクターを知るために取っつきやすいアンソロジー 

ワンダーウーマン アンソロジー

ワンダーウーマン アンソロジー

 

 ↓ワンダーウーマンのバトルシーンに重きを置いたベストバウト

ワンダーウーマン:ベストバウト (ShoPro Books)

ワンダーウーマン:ベストバウト (ShoPro Books)

 

 ↓正史をベースにしながら、舞台を現代に切り替えて語りなおしたアースワン  

ワンダーウーマン:アースワン (ShoPro Books)

ワンダーウーマン:アースワン (ShoPro Books)

 

 ↓映画版には登場しなかった半獣の女・チーターが登場するDCリバースというシリーズのザ・ライズ 

ワンダーウーマン:ザ・ライズ (ShoPro Books DC UNIVERSE REBIRTH)

ワンダーウーマン:ザ・ライズ (ShoPro Books DC UNIVERSE REBIRTH)

 

 

ワンダーウーマン単体の単行本ではないもののDCユニバースのアンソロジーとして、彼女のエピソードが登場するコミックもあります。

ワンダーウーマン初登場のエピソードが収録されているDCコミックスアンソロジー  

DCコミックス アンソロジー

DCコミックス アンソロジー

 

 ↓NEW52!というシリーズでのワンダーウーマンの生い立ちが収録されているDCキャラクターズ:オリジン 

DCキャラクターズ:オリジン (ShoPro Books THE NEW52!)

DCキャラクターズ:オリジン (ShoPro Books THE NEW52!)

 

 まだ日本語訳がされていないコミックも多いですが、更に気になる方は電子書籍や輸入盤で英文のコミックを読んでみるのもありだと思います。 

Wonder Woman Vol. 1: Blood (The New 52)

Wonder Woman Vol. 1: Blood (The New 52)

 

 ワンダーウーマンは、DCコミックスにおいて“トリニティ”と呼ばれる3大ヒーロー(スーパーマンバットマンワンダーウーマン)の一角で、本国では絶大な人気を誇るキャラクターです。

トリニティの3人をはじめとするDCコミックのヒーローたちは、いずれも長期シリーズのため、ストーリーラインに矛盾が生じることも多々あります。そのためDCでは「多元宇宙(マルチバース)」と呼ばれる概念を用いており、同一のヒーローでも別の世界線にいるということにして、矛盾を解消したり、設定を仕切り直したりしています。(マーベルもDCの後追いで似たような設定を導入)

なので、今回の映画版も「これが絶対的な原作エピソード」と呼べる作品がなく、様々な世界線から要素を抽出しているような形になっています。

 
 原作者のマーストンは著名な心理学者であり、嘘発見器を開発に携わった発明家でもあります。ワンダーウーマンに登場する“真実の投げ縄”は嘘発見器の投影とも言われています。

また、マーストンは妻のほかにオリーブ・バーンというもう一人のパートナーがいたそうで、ダイアナのキャラクター造形にはオリーブの存在が多大な影響を与えているそうです。

 

 【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『モンスター』を手掛けたパティ・ジェンキンス監督です。

モンスター [DVD]

モンスター [DVD]

 

監督にとっては『モンスター』以来、14年ぶりの長編映画監督作になります。

ジェンキンス監督は、DCEUの企画が立ち上がる以前からワーナーブラザーズに対して「私にワンダーウーマンを撮らせてほしい」をアプローチを掛けていたそうで、その念願がかなって本作の監督に抜擢されました。その結果、本作の大ヒットにより女性監督作品で歴代第1位となる興行収入をあげています。(その他の監督候補には『ブレイキング・バッド』や『ゲーム・オブ・スローンズ』の女性プロデューサー・ミシェルマクラーレンさんも挙がっていたそう)

 脚本には2006年からワンダーウーマンのコミックのシナリオを手掛けているアラン・ハインバーグさんが関わっており、コミックの世界観も丁寧に組み込まれています。

ヒロイン・ダイアナを演じたのはガル・ガドットさん。イスラエル国防軍で戦闘トレーナーとして勤めていた経験を持つ彼女は、コミックのダイアナを現実世界にそのまま映し出したような佇まいで、逞しすぎるワンダーウーマンを演じるにはこれ以上の適役はいないのではないかと思わせてくれる存在感でした。 

 

【私的評価】

68点/100点満点中

 本作はDCコミックスの映画化プロジェクトであるDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)の第4作目になるのですが、その4作の中でも一番出来のいい作品になっていたと思います。

女性の地位が低かった時代を、物語の舞台背景にしたことで女性ヒーローのたくましさがより引き立ち、特に第2幕の展開は、男性を率いる女性のカッコよさと、民衆を救い出すヒーローとしてのカッコよさが両立した素晴らしいシークエンスに仕上がっていました。

 ただ、クライマックスにかけての展開に様々な矛盾を感じもやもやするところもありました。

 

 

 

 

以下ネタバレあり

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映画『エル ELLE』と原作小説『Oh...』(ネタバレあり)

 

今回紹介する作品は

映画エル ELLEです。

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【あらすじ】

ビデオゲーム会社の社長を務める敏腕経営者・ミシェルは、パリの郊外に一人で暮らしていた。ある日の午後、突然家に押し入ってきた覆面の暴漢に、ミシェルは激しい暴行を加えられレイプされてしまう。しかし、犯人が去って行くとミシェルは荒らされた部屋を整理し、何事もなかったかのように息子のヴァンサンに振る舞った。自分の身近な人が犯人なのではないかと考えたミシェルは、会社の社員などに探りを入れるが、犯人は見つからず、それどころか彼女の元にはレイプ犯からのメッセージが送りつけられてくるのだった…

【原作】

原作はフランスの作家フィリップ・ディジャンの小説『Oh…』です。

エル ELLE (ハヤカワ文庫NV)エル ELLE (ハヤカワ文庫NV)

 

本作はフランスの5大文学賞の一つであるアンテラリエ賞を受賞した作品で、過激な内容ながら本国で14.5万部も売り上げたベストセラー小説です。

著者のフィリップ・ディジャンは発表した作品が数多く映像化されている作家で、『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』をはじめ『許されぬ人たち』『愛の犯罪者』(どちらも日本劇場未公開)などの映画に原作提供をしています。

作者のディジャンは本作の執筆中、イザベル・ユベールのことを思い浮かべることが度々あったそうで、ミシェル役が彼女に決まったときは願ったり叶ったりだったそうです。

 

 【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンをとったのは『ロボコップ』や『トータルリコール』のポール・ヴァーホーベン監督です。

 ヴァーホーベン監督は『氷の微笑』や『ショーガール』などエロティックで変態性の高い画をとることに長けているので、この小説を映画化するにあたっての起用は極めて監督の資質にあっているといえるでしょう。

本作の原作中には、テレビの制作会社で働く主人公のミシェルが、出来の悪い脚本を次々とボツにいていく描写があるのですが、その様が映画『ポール・ヴァーホーベン/トリック』の中で監督が一般公募の脚本を斬り捨てていく姿ととても良く似ていて、監督は主人公のこの部分に共鳴したのではないかと勘ぐってしまいました。

撮影監督を務めたのは『君と歩く世界』や『ジャッキー/ファーストレディ最後の使命』などでもその手腕を発揮したステファーヌ・フォンテーヌ。本作では手持ちカメラを効果的に使っており、登場人物たちの秘密を覗き見るようなスリリングなカメラワークが多く見られました。

主人公ミシェルを演じたのはフランスの至宝イザベル・ユベール。御年64歳とは思えぬ妖艶な魅力を振りまいており、体を張った演技を含め、彼女以外では体現できないようなキャラクターに仕上げていました。元はハリウッドで製作される予定だった映画なのですが、イザベル・ユベールが主演に決まったことにより、フランスで撮影されることになったほど、彼女の存在はこの映画の基軸になっています。

 

【私的評価】

91点/100点満点中

主人公にどれだけ感情移入できるかが作品への評価に直結しがちな昨今、ヴァーホーベン監督はそんな観客に対して見事なまでのカウンターをかましてくれました。とにかく観客に意表を突く展開が連発され、何度も観客側の想像を裏切ってくれるので、終始興味が尽きることなく鑑賞できました。

かなり好き嫌いの別れそうな映画ですが、監督は意図して登場人物への共感性を排除しているので、理解しえない主人公の行動原理をどうにか読み解こうとすることが楽しいタイプの作品です。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレあり

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