雁丸(がんまる)の原作代読映画レビュー

原作読んで映画レビューするよ!

映画『お嬢さん』と原作小説『荊の城』(ネタバレあり)

 

今回紹介する作品は

『お嬢さん』です。

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【あらすじ】

1930年代、日本統治下の韓国。スラム街で詐欺グループに育てられた少女スッキは、藤原伯爵と呼ばれる詐欺師から、ある計画を持ちかけられる。それは、莫大な財産の相続権を持つ令嬢・秀子を誘惑して結婚した後、精神病院に入れて財産を奪い取ろうというものだった。計画に加担することにしたスッキは、人里離れた土地に建つ屋敷で、日本文化に傾倒した支配的な叔父の上月と暮らす秀子のもとで、珠子という名のメイドとして働きはじめる。しかし、献身的なスッキに秀子が少しずつ心を開くようになり、スッキもまた、だます相手のはずの秀子に心惹かれていき……。

(映画.com様より抜粋)

 

【原作】

原作は、イギリスのミステリー作家サラ・ウォーターズの「荊の城」です。

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

 

 「荊の城」は英国推理作家協会賞の歴史ミステリ部門における、エリス・ピーターズ・ヒストリカルダガー賞を受賞した作品で、世界的権威のあるイギリスの文学賞ブッカー賞の候補作にもなっています。

 

作者のサラ・ウォーターズさんは、同性愛の要素を含んだミステリー作品を多く手掛けてきた作家で、彼女自身もレズビアンだったりします。

 

原作はディケンズ作品からの影響を多く受けている箇所が多くみられ、「オリバーツイスト」や「大いなる遺産」を彷彿とさせる描写が多々見られます。(オリバーツイストは作中でもタイトルが出できます。)

 

物語の構成は、第1章で令嬢の侍女となる掏摸(スリ)師のスウの一人称で物語が語られ、第2章では令嬢のモード・リリーの視点に移行し、第3章でスウの視点に戻るという構成になっています。

映画版でも2章目までは二人の視点の転換で描かれています。

 

【スタッフ・キャスト】 

 本作を手がけたのは「親切なクムジャさん」や「オールド・ボーイ」のパク・チャヌク監督です。

 パク・チャヌク監督の得意とする 復讐譚や官能的な性描写は、本作にもしっかり盛り込まれていました。

パク監督は「親切なクムジャさん」や「渇き」でも一緒だったチョン・ソギョンさんと再タッグを組み共同で脚本を手掛けています。

 

俳優陣はいずれも優れた演技を披露していますが、その中でも特に目立っていたのが、1500人以上のオーディションからスッキ役を射止めたキム・ミニさんでした。

無垢なようでいて実はそうでもない、打算的なようでいて実はそうでもない、微妙なバランスのキャラクターを文字通り体現していました。

 

【私的評価】 

78点/100点満点中

 

 1章目から2章目中盤までは原作に忠実なのですが、2章目の後半以降の展開は原作からガラリと変えています。

映画オリジナルの後半からの展開に原作以上の驚きがあれば良かったのですが、とくに驚きもハラハラもあまりなかったので少々残念でした。

 

原作よりも官能性がより高まっており、おっぱいもたくさん見れて男としてはありがたい限りだったのでプラス5点しました。(最低な評価基準)

また、物語を重苦しくし過ぎないユーモア要素にも好感が持てました。

 

 

 

以下ネタバレあり 

 

 

 

 

 

 

 【原作との比較】

なんといっても原作からの大きな改変点は舞台をイギリスから日本統治下の韓国に置き換たことでしょう。

 舞台は大きく変わっていますが、登場人物の立ち位置や性格はほぼ原作通りで、舞台に合わせた細かい設定の変更がなされています。

例えば原作に出てきたブライア城(令嬢たちの住む城)は、西洋風と日本風の建築が隣り合うお屋敷になっていたり、令嬢の叔父の設定も春本を収集し目録を作成していたイギリス人から、春本・春画の収集をし競売にかける日本人憧れている朝鮮人という設定に切り替わっています。

他の登場人物も舞台に合わせて名前や細かい設定などが変わっていますが、原作のキャラクターが持っていた性質の根幹までは変えていません。

 

中盤までは原作とほぼ同じ内容で進んでいきますが、後半からの展開が原作と大きく異なります

侍女が令嬢に騙されて精神病棟に入れられ、第二部で令嬢の過去が語られるところまでは一緒ですが、映画版では侍女と令嬢が結託し、伯爵を出し抜くというオリジナル展開になります。

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第三部からのストーリーは原作と映画版でさらに大きく異なっています。

原作では精神病棟に入れられた侍女が看護婦から「カッコーの巣の上で」のごとくいじめ抜かれ病院からの脱出を画策する展開や、侍女の育ての母が実は伯爵(原作では〈紳士〉という呼び名)と実は裏で繋がっており計画的に娘を城に送り出していたという展開や、令嬢の母だと思っていた人が実は侍女の本当の母で、侍女の母だと思っていた人が令嬢の母だったとうい展開などがあるのですが、映画版ではその話はバッサリとカットされています。

 変わりに映画版では、令嬢と侍女が日本国外に脱出するための計画を実行する逃亡劇が第三部で描かれています。そして、侍女と令嬢の性交描写が原作よりもボリューム感を増しています。

 

【原作からの改良点】

上記の通り、映画版は原作よりも官能性をぐっと高めています。侍女と令嬢の性愛を濃密に描くことによって、原作よりも2人の慕情が強固になっていました。

劇中で繰り広げられる性交やプレイも、特殊すぎてなんだか良く分からないものもありましたが、今まで見たことがないものが見られるので、それだけでもこの映画を見る価値はあると思います。

個人的には、令嬢が朗読会で披露した「少林寺木人拳」ならぬ「朝鮮式木人プレイ」(勝手に命名)がわけが分からなくて好きでした。

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また原作にもあった「侍女が指ぬきで令嬢の歯をこするシーン」は、パクチャヌク監督の手腕により、よりエロチックなシーンに仕上がっています。特に音がめちゃくちゃエロイ!このシーンがうまくいっていないと、その後の2人の性愛関係に説得力が生まれないので、非常によくできていました。

 

映画版は原作後半のミステリー部分を丸々削った分、2人の女性が束縛やしがらみから解放されるというドラマ性をよりクローズアップし、原作以上に2人の開放感が感じられるエンディングになっていました。

 

原作はシリアスな風合いが強く重苦しい展開がひたすら続くのですが、本作ではパクチャヌク監督の得意とするユーモア演出も絶妙な塩梅で含まれており、観客の心を繋ぎ止めるのに役立っていました。

 

【本作の不満点】

物語後半部の改変について、パクチャヌク監督は「原作の結末が自分の期待していたものと違ったので改変した」と語っているのですが、自分は原作の結末にかけての侍女の育ての親をめぐる母性の物語が好きだったので、丸々そぎ落とされたのは残念でした。

主人公たちの母親の存在は原作ではとても重要なファクターになっており、侍女と令嬢のバックグラウンドやキャラクター性がより深堀りされる内容だったので、映画版は物足りない感じがしました

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原作での精神病棟からの脱出シーンは、計画の危うさや看護婦からの暴力に対しての恐怖など脱出劇としての映画的な面白さがあったので、きっと映画版ではよりスリリングになるだろうと思っていたのですが、割とあっさりと抜け出せていたのでがっかりしました。せめて脱出への計画を遂行する準備段階ぐらいは見せてほしかったです。

 

映画版オリジナルの第三部には、第一部や第二部ほどの驚きがあまりなく、2人の計画も大した危うさもなく事も無げに進んでいきます。正直この展開は面白くなかったです。

せめて2人の計画が伯爵(詐欺師)にバレてしまうとか、令嬢の追手が船乗り場まで追ってくるぐらいの展開があれば、面白さが持続した思います。

もしくは「実は2人が結託していました」というのは第三部のラストで明かされる大ネタにすればよかったのでないかと思います。

 

【侍女 スッキ】

令嬢の侍女スッキは、結婚詐欺の片棒を担がされ令嬢を籠絡させるつもりで屋敷に潜入しますが、秀子に魅了され次第に計画に対して迷いが生まれていきます。

スッキと秀子が屋敷から抜け出す前に2人で一緒に、叔父の春本の蔵書をメチャクチャにするという映画版オリジナルのシーン(原作では令嬢が一人で書斎に忍び込み蔵書を切り裂く)があるのですが、そのシーンが「お嬢様を解放してあげたい」というスッキの気持ちを強く表しており非常に良かったです。

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彼女は物語の主軸でありながら、コメディリリーフとしてもいい味を出していました。

令嬢と映画を見ている観客側はスッキが騙されていることを知っているので、その騙し騙されの関係が絶妙なすれ違いを生み、物語と関係ないユーモアシーンではなく物語的必然性のあるコメディーシーンになっていて非常に良かったです。

 

【令嬢 秀子】

屋敷の令嬢である秀子は、富豪の叔父 上月(こうづき)から束縛を受け性的搾取までされている孤独な女性です。

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彼女の過去の話の中で原作には出てこなかった叔母のエピソードがあります。

叔母は秀子同様、叔父の開く朗読会で淫猥な朗読を披露していたのですが、ある日庭の桜の木で首を吊り自殺します。

その後、成長した秀子は桜の木にぶら下がり死んだ叔母と同じ風景を眺めます。

この叔母の存在が、屋敷にとどまり続けた場合の秀子の運命を想起させ、屋敷からの脱出しなければならない必要性に、より切迫感を持たせていました。

 

【自由を手に入れる物語】

本作は女性の肉体の美しさを描きながらも、決して男性視点過ぎないバランスが非常に良かったです。

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男性からの性的搾取を受けてきた女性が、精神的にも肉体的にも開放される物語としてみると、ラストシーンの2人のまぐわいは彼女たちの手にした自由の表れでもあり、見ている観客側も精神的な絶頂が味わえるものとなっていました。