雁丸(がんまる)の原作代読映画レビュー

原作読んで映画レビューするよ!

映画『銀魂』と原作漫画『銀魂』(ネタバレあり)

今回紹介する作品は

映画銀魂です。

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【あらすじ】

江戸時代末期、宇宙人(天人)の襲来によって文明は飛躍的に発達した一方、廃刀令によって侍は衰退の一途をたどっていた。そんな江戸はかぶき町、かつて攘夷戦争で“白夜叉”の異名で恐れられていた坂田銀時は便利屋を営み、従業員の志村新八や、居候の少女・神楽と共に暮らしていた。

ある夜、謎の辻斬りによって銀時の盟友・桂が凶刃に倒れ、桂の相棒・エリザベスが助けを求め万事屋へと訪れた。その一方で、銀時のもとには鍛冶屋の兄妹からも依頼が入っていた。それは盗まれた妖刀「紅桜」取り返してほしいというものだった…

【原作】

原作は空知英秋先生の同名漫画『銀魂』です。

銀魂-ぎんたま- 1

銀魂-ぎんたま- 1

 

 2003年12月より連載が始まった『銀魂』は、現在までに69巻が発刊されており、累計発行部数は5,100万部を超える大ヒットコミックです。

2006年からはアニメ版も放送され、今作の元にもなった紅桜篇の映画版『劇場版銀魂 新訳紅桜篇』と、空知先生の書き下ろしエピソード『劇場版銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ』(完結篇と言っておきながら、いつもの終わる終わる詐欺でしたが)の2本がアニメ映画化されています。

 実写版では1巻の冒頭部分と10巻のカブト狩りのエピソード、そして11巻と12巻の紅桜篇を元にしてストーリーを組み立てています。

余談ですが、空知先生は一度撮影現場に見学に行ったそうですが、キャストの誰からも話しかけてもらえなかったそうです。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『勇者ヨシヒコシリーズ』や『HK 変態仮面』などを手掛けた福田雄一監督です。

HK/変態仮面

HK/変態仮面

 

 勇者ヨシヒコ放映時から福田監督の元には銀魂の実写化をしてほしいというツイートが寄せられていたそうで、監督が子供とたまたま目にしたアニメ版銀魂の面白さに嫉妬と自作への親和性を感じ、プロデューサーに掛け合ったそうです。空知先生も「福田監督なら」ということで実写化を許諾したそうです。

本作は撮影や音楽、編集、照明などほとんどのスタッフが福田監督の過去作に携わっている福田組の方たちなのですが、いつもの福田監督作と違った風合いを与えているのがアクション監督のChang Jae Wook(チャン・ジェウク)さんです。迫力のあるアクション演出を多く見せてくれますが、特に戦闘民族・夜兎族の神楽のアクションは尋常でない動きでキャラクター性がはっきりと表しています。

また、本作は『写楽』や『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』でアカデミー賞最優秀賞を獲得した名美術監督池谷仙克さんの遺作(昨年10月に逝去)ともなっています。かぶき町の街並みや万事屋のセットなど原作しっかり踏襲した素晴らしい美術を披露しています。
主人公・銀時を演じたのは小栗旬さん。キレのある殺陣シーンもさることながら、クローズZERO仕込みのケンカ風アクションもカッコよかったです。漫画版やアニメ版には、小栗旬之介というキャラクターが登場するエピソードがありますが、小栗旬さんとは一切関係ない人物です(多分)

 

 【私的評価】

59点/100点満点中

キャラクターのビジュアルや基本設定などは原作に忠実に再現しており、アクションシーンのカッコよさも申し分なかったです。

映画オリジナルで加えられているコメディシーンはかなり攻めていて面白く、オリジナルのクライマックスもアツくて良かったです。

ただ、キャラクター紹介の雑さは一見さんには不親切で、原作通りのコメディシーンは原作既読者にとっては目新しさに欠けるように感じました。

 

 

 

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

 

 

 

【原作との比較】

 映画版では、原作の第1話冒頭部を元に銀時や新八のキャラ紹介をし、カブト狩りのエピソードの中で真選組や桂、お妙など、その他の主要キャラクターの紹介をしています。そして、前にも述べた通り“紅桜篇”を物語の本筋としてストーリーを構成しています。

原作の登場していた、お登勢(万事屋の家の大家)や長谷川泰三(元・入国管理局長で現在無職、愛称「マダオ」)猿飛あやめ(元御庭番衆のくノ一で銀時のストーカー)などのキャラクターは本作には登場しません。

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実写版は、一部キャストにアニメ版と同じ声優(吉田松陽役の山寺宏一さんや、定春役の高橋美佳子さん等)を起用しており、映画のファーストショットもアニメ版にかなり寄せているので漫画版を意識しているというより、アニメ版を意識したアプローチになっています。

映画の製作にアニメの放映局と同じテレビ東京が入っているので、アニメ版に寄せた形になったのかもしれません。

 

【原作からの改良点】

原作での紅桜篇のラストは、鬼兵隊と結託した天人たちに囲まれた銀時と桂が背中を預けて戦う展開なっているのですが、映画版では、高杉と銀時が一対一で戦うクライマックスが用意されています。原作では高杉に逃げ去られてモヤモヤした所を、一本の映画として満足できる展開に改変しておりとても良かったです。

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漫画版の紅桜篇では出番のなかった真選組が(劇場用アニメの紅桜篇には少し出番あり)実写版では本筋にしっかり絡んでいて真選組が好きな自分としてはかなり嬉しかったです。

また映画オリジナルで加えられているコメディシーンには、シャアザクっぽいのやメーヴェっぽいのが登場し、銀魂らしいメタ的な笑いが加えられていて劇場内も笑いに包まれていました。敵に囲まれた新八がモジモジと襟の金具をいじり、武市役の佐藤二朗さんににいじられるシーンは実写でしか起こりえない笑いになっていて爆笑してしまいました。(空知先生から「佐藤二朗さんは自由にやらせてください」という実写版に対しての唯一の要望があったそうです。)

 

【本作の不満点】

本作は紅桜篇を中心に話が進められているためか、主要キャラクターの初登場シーンやキャラ紹介は随分おざなりにされています。特にカブト狩りのエピソード中に登場する真選組や桂、お妙らの紹介は画面上に表示される一文程度で片付けられるため、初見の人には浅くしかキャラクター性や人物相関が認識できないのではないかと感じました。

なので、本作は原作ファンや既読者に向けて作られている感じが強いのですが、原作を踏襲したシーンが多すぎてオリジナルを知っている人には目新しさに欠けるような気がしました。原作通りのコメディシーンを見せられても、原作で見た初見時ほどの笑いが起きるわけはないので、劇場内も漫画と同じギャグシーンではあまり笑いが起きていませんでした(原作ファンとしてはこれが辛かった…)。

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また、天人の造形やグリーンバックを使ったCGのビジュアルもチープな感じがして、もう少しどうにかならなかったのかと感じました。(同じワーナー制作の『ジョジョ』や『鋼の錬金術師』は予告を見る限り絵面のチープさは感じないのに)もし予算が少なかったのなら、アニメ版のようにそれもネタにしてしまえば良かったのにと思います。

あと、殴られたキャラクターが面白い顔をするのもあまり頂けなかったです。顔芸で笑いをとろうとするのは、銀魂の笑いの質とも違うし、安易に笑いを取りに行っている感じがするのでやめてほしかったです。 

 

【パロディ・ギャグ】

銀魂ではおなじみのパロディシーンは、本作でもたっぷり披露されます。

カウントダウンTVを模した主要キャラによる悪ふざけは、アニメ版にも“CD銀魂”として登場しましたが、映画版でもしっかり踏襲されています。

CDTVパロへの導入部で披露される、坂田銀時もとい小栗旬の自己顕示欲たっぷりの自作PVでは、明らかに反町隆史を意識した曲(『ポイズン』ではなく『パッション』という曲)が歌唱されます。ですが、劇場に来ていた中高生には反町隆史っぽさが伝わらなかったのか、若い子からの笑いがあまり起きておらずジェネレーションギャップを感じました。

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敵陣にとらえられた神楽が、武市に甘やかされご飯を貪り食べるシーンでは『大食い女王決定戦』のパロディが繰り広げられます。テレビ東京が製作に入っているため、パロディシーンとしてはかなりしっかりしており、大食い女王のもえあずさんや、MCの中村有志さんがきちんと配役されているところに好感が持てました。

シャアザクについては、アニメ版の制作会社がサンライズなのでギリギリセーフだとしても、ナウシカの方はジブリや日テレに怒られかねない気がします(笑)

 

【馬鹿な男たち】

人斬りの似蔵によって致命傷を負い、何とか一命を取り留めた銀時でしたが、お妙の制止をおして再び戦いに赴きます。敵地に向かうために家を出ようとした銀時でしたが、玄関前には着替えと傘が置いてあり、お妙からの置き手紙が添えられていました。

かぶき町の街を歩きながら、お妙のことを「かわいくねー女」と言う銀時と、銀時のことを「馬鹿な男」というお妙の間には言葉のいらない信頼関係があり、作品にオトナな風合いを与えています。

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鍛冶屋の長男・村田鉄也は、今は亡き先代の影を追うあまり、妖刀にからくりの要素を掛け合わせた恐ろしい兵器・紅桜を作り出してしまいました。人の体を養分とし成長していく紅桜は似蔵の体を侵食し、遂には化け物のような姿へと形を変えてしまいます。化け物と化した似蔵に鉄也の妹・鉄子は必死で立ち向かいますが、歯が立たず襲われそうになります。そこに割って入り鉄子を庇ったのは、兄・鉄也でした。

先代を越えようと必死になるあまり、すぐそばにいた大事な存在を忘れてしまった鉄也は刀よりも大事なものをようやく思い出したのでした。

 

【道をたがえた仲間】

かつて攘夷戦争で天人たちと戦った攘夷志士・銀時、桂、そして高杉。昔は志を共にしその強さで世に名を馳せた3人でしたが、反政府思想の重罪人として恩師・吉田松陽が捕縛されると、高杉は幕府に対し怒りを抱き、過激派として国を破壊する計画を企てるようになってしまいます。

 映画のラスト、鬼兵隊の船の上で銀時と高杉が対峙し互いの思いをぶつけますが歩み寄る事は出来ず、刀をとっての戦いが始まります。

始めは刀を使った殺陣が繰り広げられますが、最後は刀を捨て拳と拳での生身の戦いに移り変わっていきます。この殴り合いの様相が子供の頃のケンカの延長に見えてとても良かったです。パワーボムで決着をつけるあたりもカッコよかった…。

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 似蔵に斬られたかに思われていた桂は、恩師・吉田松陽からもらった教本を懐に入れていたため致命傷を回避していました。

後に、高杉も桂と同じように松陽の教本を肌身離さず持っていたことが明らかになります。松陽の教えに背く破壊行為を重ねながらも高杉が教本を捨てずにいたのは、桂のように先生の教えを忘れないためではなく、高杉が誰よりも松陽に憧れと執着を抱いていたことの現れかもしれません。

一方、銀時は教本の事を覚えているかと訊ねた桂に対し「ラーメンこぼして捨てた」と答えます。その言葉の真偽は定かではないですが、教本がなくとも松下村塾の教えは銀時の身にしっかり染み着いているのかもしれません。