雁丸(がんまる)の原作代読映画レビュー

原作読んで映画レビューするよ!

映画『僕のワンダフル・ライフ』と原作小説『野良犬トビーの愛すべき転生』(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は

映画僕のワンダフル・ライフです。

f:id:nyaromix:20171007090059j:plain

【あらすじ】

短い犬生を終え、再び子犬としてこの世に戻ってきたベイリーは、ある猛暑の日、車の中に閉じ込められぐったりとしているところをイーサンという少年に救われる。イーサンはベイリーを飼い犬にし、遊ぶ時も寝る時もほとんどの時間を共に過ごしていた。イーサンは成長し、ハンナという恋人もできたが、彼の家族の問題や自宅の火事など様々な問題に巻き込まれ、ハンナとも別れることになってしまった。ベイリーも次第に年老いていき、老衰していったベイリーはこの世から旅立つことになった。しかしベイリーが目を覚ますと、彼はシェパードに生まれ変わっており、警察犬としての犬生が始まるのだった…

【原作】

原作はW・ブルース・キャメロンさんの小説『野良犬トビーの愛すべき転生』です。(原題は『A Dog's Purpose』直訳すると“犬の目的”) 

野良犬トビーの愛すべき転生 (新潮文庫)

野良犬トビーの愛すべき転生 (新潮文庫)

 

 本作は、2010年にアメリカで発表されニューヨークタイムズのベストセラーランキング第1位の座を1年間キープし続けたベストセラー小説です。

2012年には続編にあたる『A Dog's Journey(直訳:犬の旅)』が出版されています。

作者のW・ブルース・キャンベルさんは全米で人気のコラムニストだそうで、これまでに出版した本は小説よりもコラムやエッセイのほうが多いようです。

彼の書く小説にはコラムニストらしいユーモアが交えられており、面白い言い回しや、なかなか思いつかなかった着眼点が多分に盛り込まれいます。

本作が執筆されたきっかけは、キャンベルさんの恋人であるキャスリン・ミションさんが、初めて買った愛犬を失い失意の中にいる様子を見て、心の痛みを感じたことがきっかけだったそうです。キャンベルさんはミションさんにこの物語を誰よりも先に利かせたそうで、そのストーリーを聞いた彼女は号泣したそうです。そして彼女は本作の脚本を担当しています。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンをとったのは『ギルバート・グレイプ』や『サイダーハウスルール』などを手掛けたラッセ・ハルストレム監督です。 

HACHI 約束の犬 (Blu-ray)

HACHI 約束の犬 (Blu-ray)

 

 本作はラッセ・ハルストレム監督にとって『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』『HACHI 約束の犬』に続く3本目のワンちゃん映画になります。

ハルストレム監督は実生活でも犬を飼っている愛犬家だそうで、本作の“生まれ変わり”という超現実的な設定以外は、犬の行動原理をリアルに描写しようと努めたそうです。

本作の主人公の犬たちの声を当てたのはジョシュ・ギャッドさん。『アナと雪の女王』でサイドキックのオラフの声を演じ、実写版『美女と野獣』ではル・フウ役を演じたコミカルな演技に定評のある役者さんです。彼の声はとても面白く、無垢で純粋な犬たちの声にぴったりと合っていました。

老年のイーサンを演じたのはデニス・クエイドさん。ハルストレム監督とは映画『愛に迷ったとき』以来、20年ぶりのタッグになります。円熟した味のある演技で、どこか物寂しさのある男を好演していました。

本作に登場するワンちゃんたちは、いずれも演技経験のあるタレント犬ではなく、アニマルレスキューの団体や、シェルター、ブリーダーの伝手を探して見つけた犬たちだそうです。ですが、どのワンちゃんたちも自分の役を見事に演じきっており、経験のなさは感じませんでした。(ですが、警察犬の救助の撮影シーンを巡って動物愛護団体とトラブルになったことはあったそう…)

 

【私的評価】

74点/100点満点中

本作はワンちゃんが4回の転生をするのですが、犬が死にゆく描写には涙腺が刺激され、3回ほど泣きそうになりました。

原作から省略されている描写が多々あり、小説版と比べるとベイリーの苦難が多少マイルドになっている気はしましたが、その分彼が人生ならぬ犬生について考える哲学的要素が原作よりも増幅していて面白かったです。

個人的にはもう少し転生の意味が感じられる演出がほしかったなと感じる部分もありました。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

【原作との比較】

原作では、映画版とは異なる形で主人公が3回の転生を繰り返しています。

原作での主人公の生まれ変わりは以下のようになっています。

・はじめは野良犬として生まれたが、ある日セニョーラという愛犬家に拾われ、“トビー”という名をつけられる。そして複数の犬と共に飼育場で育てられるが、飼い犬が多すぎることから保健所から指摘を受け、施設に移送され最後はガスで殺処分される。

  ↓

・次に生まれ変ると、ゴールデンレトリバーになっており、少年・イーサンの家に引き取られ“ベイリー”という名をつけられる。少年だったイーサンが青年になるまで寄り添い続け、最後は家族に看取られこの世から去る。

  ↓

・次の転生ではメスのジャーマンシェパードに生まれ変わっており、警察官のジェイコブとタッグを組み、“エリー”という名で警察犬としての仕事をすることになる。しかしジェイコブが怪我を負い仕事ができなくなると、マヤという新しい警察官とパートナーになり、死ぬまでマヤの愛犬として過ごす。

  ↓

・最後はラブラドールレトリバーに生まれ変わり、ウェンディという女性の飼い犬になるが、ウェンディの母の恋人・ヴィクターに捨てられ野良犬となる。野良犬となった彼は街を彷徨い歩くが、最後は年老いたイーサンと運命的な再会を果たし、“バディ”と名付けられる。 

f:id:nyaromix:20171007144827j:plain

原作序盤の野良犬トビーのエピソードは、アメリカの犬猫の殺処分問題年間300万頭で日本の15倍近いそう)を犬目線で描いたかなりヘビーな内容なのですが、映画版ではかなり大胆に省略(子犬が網にかかって終了)されています。

その代わり映画版ではイーサンとベイリーの絆の部分に主眼を置いており、このエピソードを軸にして物語が展開されていきます。

 原作にあった警察犬時代のエピソードは、映画版では2つの犬生に分割されています。警察官ジェイコブ(映画版ではカルロスという名)の設定は原作とほぼ同じですが、彼の後任の警察官のマヤが、内気な学生という設定に代わっており、原作よりも転生の回数が増えていました

 

【原作からの改良点】

ベイリーは自分の犬生についてよく考え、哲学的な思考を巡らせるのですが、原作と映画版では彼の生きる目的がわずかに異なっています

原作でのベイリーは、イーサンとずっと一緒にいて彼を幸せにすることを生きる目標として掲げています。犬の生きる目的は人間に尽くすこととされるこの描写には、何となく西洋キリスト教にみられる「動物は人の助け手である」とする思想が感じられました。対して映画版のベイリーは「犬生を繰り返して学んできたのは、もちろん楽しむこと。困っている人を探し救うこと…」とまず最初に自分が楽しむことを挙げており、人間に尽くすこともさることながら、自分が主体的に感じる喜びを大事にしていました

もちろん原作でのベイリーの思想が悪いというわけではないのですが、映画版のベイリーの思想のほうが、人間も犬も同じ動物であると考える東洋人的な考えを持つものとして共感しやすかったです。 

f:id:nyaromix:20171007144653j:plain

灼熱の車内でベイリーがぐったりしているところを人間が救い出す場面。原作ではイーサンの母が彼を発見し助けだしていたのに対し、映画版ではイーサンが弱った犬を見つけ出す展開に改変されていました。これにより、ベイリーがイーサンを信頼し、尽くし続ける動機が強まっていました

原作のラストシーンが閉じていくような終わり方だったのに対し、映画版のラストシーンは開かれた終わり方になっています。どちらも良いエンディングなのでこれは個人的な好みなのですが、映画版の開かれた明るい終わり方のほうが好きでした。(原作のラストシーンもメチャクチャ泣けるので読んでほしいです。)

 

 【本作の不満点】

ベイリーは何度も生まれ変わりを繰り返し、最後はイーサンのもとにたどり着くのですが、前の犬生での経験が今の犬生に活きてくるという描写が少ないように感じました。原作では、野良犬だったころに覚えた逃げる術を使ってイーサンと巡り合い、イーサンとのふれあいで覚えた人助けの経験が警察犬としての活躍に役立ち、警察犬としての経験のおかげでイーサンとの再会を果たします。

このような以前の犬生で培った知識や経験が、今の犬生に活かされる描かれ方があまりされておらず、生まれ変わりの意味があまり感じられませんでした。

f:id:nyaromix:20171007144433j:plain

 コーギーの“ティノ”として、マヤという女性と共に過ごすエピソード。

ティノ(もといベイリー)に初めて好きなコが出来るという点で、原作にはなかった描写が加わっていて良かったですが、飼い主のマヤが、初めて恋を知る学生という点や愛犬を溺愛する善き人という点においてイーサンとあまり変わらず、転生による飼い主側のキャラクターの変化がやや小さいように感じました。

 また、警察官カルロスがエリー(もといベイリー)によって、妻の死から立ち直りかけていたところで、唯一の心の拠り所であったパートナーの犬が死んでしまうのはかなり気の毒に感じたので、のちのち何かしらのフォローがほしかったです。(原作では彼に新しい結婚相手ができ、子供も生まれています)

 

【アメリカの犬事情について】

日本とアメリカでは、愛犬と飼い主の関係性に少々違いがあります。例えば、ベイリーが亡くなるシーン。日本では、犬が病気にかかると延命措置でどうにか生き延びさせることが主流ですが、アメリカでは犬が病気等で延命の見込みがない場合は、犬に苦しみを与え続けないよう、ただちに安楽死させることが多いそうです。 

f:id:nyaromix:20171007144603j:plain

アメリカの警察犬部隊は「K-9ユニット」と呼ばれ、様々な事件現場で活躍しています。昨年1月、オハイオ州で警察犬が犯人に撃たれて殉職する事件が発生しました。食料品店に入った強盗犯に立ち向かおうとしたジェスロという犬が、顔・肩・首の3か所を打たれ亡くなったそうです。映画では警察犬のエリーが犯人の銃に撃たれ殉職しましが、おそらくこの事件が元になっていると思われます。今アメリカでは、警察犬用の防弾チョッキの着用が広まっており、ボランティア団体などがそれを支援しているそうです。

 

【犬の生きる目的】

死によって若きイーサンと袂を分かったベイリーは、生まれ変わって様々な経験をし、孤独というものの辛さや、他者と愛し愛されることの喜びなど、色々なことを知っていきました。そして50年の時を経てイーサンとの再会を果たしたベイリーは、イーサンの孤独を感じ取ります。そして彼に愛する人がいないことを察知したベイリーは、イーサンとハンナを再び巡り合わせます。

人間も犬も関係なくすべての生き物にとっての生きる喜びとは、愛し愛されることなのです。 

f:id:nyaromix:20171007144406j:plain

ベイリーは今までの生まれ変わりの中で、知ったことをこのように語ります。

「犬生を繰り返してきて学んだことは、もちろん楽しむこと。困っている人を探し、救うこと。好きな人をなめ、過去をいつまでも悲しまず、憂いもしない。ただ今を生きる。今を一緒に生きる。それが犬の目的

これは彼が犬生で学んだことですが、人間にとっても最も大事なことです。過去を悔いたり、未来を不安に思うことよりも、今を精いっぱい生きることが我々人間にとっても生きることの一番の意味なのではないでしょうか。そんな大事なことをベイリーは教えてくれました。