映画『オリエント急行殺人事件』と原作小説『オリエント急行の殺人』(ネタバレありの感想)
今回紹介する作品は
映画『オリエント急行殺人事件』です。
【あらすじ】
世界的名探偵エルキュール・ポアロは、エルサレムの教会での盗難事件を解決し、イスタンブールで久々の休暇を取ろうと考えていた。しかし、彼の元に新たな事件の解決を求める電報が届き、オリエント急行で引き返すことを余儀なくされる。オリエント急行には多国籍の客たちが乗車しており、その中の一人・ラチェットからポアロは自分の警護をして欲しいと依頼を受ける。ポアロは彼の依頼を断るが、その夜ラチェットは何者かによって殺されてしまった。ポアロは容疑者と思われる乗客12人に証言を聞き、捜査を進めていくが…
【原作】
原作はアガサ・クリスティーの言わずと知れた傑作ミステリー小説『オリエント急行の殺人』です。
本作はアガサ・クリスティーにとって長編第14作目の小説で、ポアロシリーズとしては8作目の作品になります。
幾度となく映像化された作品ですが、一番有名なのは1974年のシドニールメット版でしょう。
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シドニー・ルメット版は少々の改変はあるものの原作に比較的忠実に作られているので、原作の内容が知りたいけど本を読むのが億劫という人にはこの作品を見るのがおススメです。
ミステリーにおいて反則的ともいわれた結末は世界中で話題を呼び(小説家で脚本家のレイモンド・チャンドラーは本作の結末に大バッシングを浴びせたそう)、クリスティーの代表作の一つとなっています。
作中で語られるアームストロング家の誘拐事件は、1932年にアメリカを騒がせたリンドバーグ愛児誘拐事件が元になっており、クリスティーが作中で犯人に鉄槌を食らわせたのだといわれています。
【スタッフ・キャスト】
本作で監督・主演を務めたのが『ヘンリー五世』や『シンデレラ』を手がけたケネス・ブラナーです。
ケネス・ブラナーといえば、シェイクスピア俳優として有名な人で、シェイクスピア作品の映画化(『ヘンリー五世』『ハムレット』『恋の骨折り損』)も数多く監督しています。そのほかにも『フランケンシュタイン』や『エージェント・ライアン』『スルース』など古典的名作のリブートに多く関わっており、本作もそういった古典的名作の現代リブートの一作と言えます。
オリエント急行の乗客を演じるのはジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、ジュディ・デンチ、ウィレム・デフォー、ペネロペ・クルスなど錚々たる名俳優たち。名優たちの熟練した演技が映画に深みを与えていました。
脚本を担当したのは、『LOGAN/ローガン』や『ブレードランナー2049』でも脚本を務めたマイケル・グリーン。彼が脚本に入ったことによって、本作のヒューマンドラマとしての側面がぐっと前景化していました。
【私的評価】
78点/100点満点中
多くの人がストーリーを知っている古典的名作を、結末を知ったうえでも楽しめるよう、いたるところに工夫が施されていました。
原作と比べると、ポアロがやや人情味のある情熱派のキャラクターになっています。
原作の嫌らしく淡々と犯人に詰め寄り真実を引き出すポアロと比べると、今作のポアロは熱量で押しているように見えて少し不満もあったのですが、ポアロの人間味が映画のテーマに深く関わり合い、ヒューマンドラマとしての深淵さが増している部分もありました。
以下ネタバレあり
続きを読む映画『パーティで女の子に話しかけるには』と原作小説『パーティで女の子に話しかけるには』(ネタバレありの感想)
今回紹介する作品は
映画『パーティで女の子に話しかけるには』です。
【あらすじ】
1977年、毎日大好きなパンクロックに明け暮れるエンは、親友のヴィクとジョンと共にライブハウスに潜り込み、声をかけた女の子に嘲笑されながらも、音楽に乗せて気ままにはしゃいでいた。ライブの打ち上げにも行こうと目論む3人だったが、会場を見つけることが出来ず、たまたま音楽が聴こえてきた家へと上り込む。そこは風変わりな人々が、風変わりなダンスや話をするパーティ会場だった。エンはそこでザンという、不思議な女の子に出会う。エンは彼女と話すうちに彼らがこの世界の人間ではないことに気づいて行き…
【原作】
原作はニール・ゲイマン作の短編小説『パーティで女の子に話しかけるには』です。
- 作者: ニール・ゲイマン,金原瑞人,野沢佳織
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009/10/30
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本作はニール・ゲイマンの短編集『壊れやすいもの』に収録されている作品で、全部で20ページほどしかない本当に短い物語です。
ニール・ゲイマンはイギリスのSF・ファンタジー作家で、DCコミック『サンドマン』の原作者でもあります。(映画の中にもサンドマンのステッカーがちょこっと映っています)ゲイマンといえば『コララインとボタンの魔女』や『スターダスト』『アメリカン・ゴッズ』など発表した作品の多くが映像化されているので、彼の名は知らなくとも彼の手掛けた作品に触れたことのある人も多いのではないでしょうか。
本作は作者にとって半自伝的な作品であるそうで、今回の映画版には主人公のエンがゲイマンそっくりのビジュアルで登場する場面があります。
【スタッフ・キャスト】
本作のメガホンを取ったのは『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』や『ラビットホール』などを手掛けたジョン・キャメロン・ミッチェル監督です。
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督は、演劇界出身の方でトニー賞を受賞した経験もある方だそうです。俳優出身ということもあって、役者への演技のつけ方が本当に上手いです。
本作は監督の過去作『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』と同じロック映画で、今作でも『ヘドウィグ〜』同様、閉塞的なルールや社会意識への反骨心が重要なファクターとなっています。
主人公のエンを演じたのは新鋭アレックス・シャープ。この方も、監督と同様に舞台を中心に活躍されていた方だそうで、こちらもトニー賞を受賞した経験があるそうです。主人公の童貞ボンクラ男子を見事に演じていて、冒頭の女の子への話しかけ方の下手くそさは自分を見ているようでした。
ヒロインのザンを演じたのはエル・ファニング。彼女のからキャスティングは、プロジェクトの始動段階から決まっていたそうで、実際に見てみると確かに彼女以外考えられないキャラクターでした。殺人的なキュートさで異文化に触れる異星人を演じていて、こちらまでドキドキさせられました。
【私的評価】
92点/100点満点中
短い短編を映画独自の解釈で膨らませ、原作の意図を汲み取った上でのオリジナル展開が繰り広げられていました。
原作よりも“パンク” の持つ意味合いが増しており、よく出来た原作アレンジになっていました。パンクの精神が周囲に感染していく様は痛快であり、ラストシーンにはホロリとさせられます。
かなり難解な内容ですが、全編を通しての珍奇なビジュアルを眺めるだけでも十分に楽しめると思います。
以下ネタバレあり
続きを読む映画『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』と原作小説『IT』(ネタバレありの感想)
今回紹介する作品は
映画『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』です。
【あらすじ】
閑静な田舎町デリーでは、子供たちが行方不明になる事件が相次いでいた。内気な少年・ビルの弟ジョージーも、下水管に潜む何者かに襲われ行方不明となってしまう。ビルは失踪したジョージーを探すため、親しい友達や、いじめられっ子から標的にされている子らと団結し、「ルーザーズ・クラブ」を結成する。彼らは謎のピエロに脅かされながらも、“それ”に立ち向かう決意を固めるのだった…
【原作】
原作はスティーブンキングが1986年に発表した傑作小説『IT』です。
- 作者: スティーヴンキング,Stephen King,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1994/12/01
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『シャイニング』『ミザリー』『スタンドバイミー』など、数多くの世界的ベストセラー作品を発表してきた文豪・スティーブンキング。手掛けてきた作品のジャンルは、ファンタジー・ミステリー・ヒューマンドラマなど多岐にわたりますが、“King of Horror”の異名を持つ通り、彼の十八番は何といってもホラー作品です。本作は彼のホラー作品の中でも言わずと知れた代表作です。キング自身が「これは書物の形をしたエピックホラー映画だ」と語っている通り、原作にはピエロの不思議な力をを介して狼男やミイラ、フランケンシュタインなど、ホラー作品では定番のモンスターたちが数多く登場しています。(今回の映画版にはあまり登場していませんでしたが)
物語のインスピレーションを得たきっかけは、キングが工業団地の沼地近くの橋を渡っているときに、その橋の不気味さから、絵本『三びきやぎのがらがらどん』を想起したことだそうで、それを発端として幼少期から大人に至るまでの地続きの恐怖を描いた本作を執筆したそうです。
ちなみに作中に登場する殺人ピエロ・ペニーワイズは、実在した連続殺人鬼ジョン・ゲイシーがモデルとなっています。
本作は1990年に1度映像化されていますが、その際は米ABCテレビでのミニシリーズだったため、映画化されるのは今回が初めてとなります。
【スタッフ・キャスト】
本作のメガホンをとったのはホラー映画『MAMA』を手掛けたアンドレス・ムシェッティ監督です。
ムシェッティ監督は、昔からスティーブン・キングの大ファンだったとのことで、監督にとってこの作品は夢のようなプロジェクトだったそうです。ムシェッティ監督は幼少期に感じた恐怖やトラウマを大人になっても忘れずに覚えている方で、その畏怖の対象をしっかりと可視化する手腕に長けており、その長所が本作でもいかんなく発揮されています。
本作の脚本を担当した1人がキャリー・ジョージ・フクナガさんです。はじめは彼を監督にするつもりでプロジェクトが進行していたそうですが、彼は監督から退き脚本のみの担当となっています。『闇の列車、光の旅』や『ビースト・オブ・ノー・ネーション』などで社会から抑圧されている人々を丁寧に描いた手腕は本作でも生かされています。
主人公のビルを演じたのは、ジェイデン・リーベラー君。『ヴィンセントが教えてくれたこと』から高い演技力を評価されていたジェイデン君は、本作でも内気ながらも芯のしっかりある男の子を好演していました。
殺人ピエロ・ペニーワイズを演じたのは、ビル・スカルスガルドさん(ターザンREBORNで主人公を演じたアレクサンダー・スカルスガルドの弟)。1990年版のティム・カリーが演じたペニーワイズが伝説的な不気味さだったので、どうしても分が悪いところはあったのですが、彼なりの解釈でペニーワイズを演じており、ティム・カリーのコピーにならないように心掛けてたので1990年版とのキャラクター性違いを楽しむことが出来ました。
【私的評価】
85点/100点満点中
原作の要所を抑えつつ 、適度に簡略化しながら大長編の小説を上手く135分に収めており、物語のテーマ性を崩さない巧みな改変がなされています。
主人公・ビルの乗り越えるべき恐怖が原作とは異なっており、映画オリジナルの展開に感動させられました。ルーザーズ・クラブの面々が直面する恐怖も映画オリジナルの部分が多く、子供だったらトラウマ間違いなしの画に仕上がっていました。
個人的にはペニーワイズの不気味さ以外は1990年のドラマ版を超えていると思います。
以下ネタバレあり
続きを読む映画『彼女がその名を知らない鳥たち』と原作小説『彼女がその名を知らない鳥たち』(ネタバレありの感想)
今回紹介する作品は
映画『彼女がその名を知らない鳥たち』です。
【あらすじ】
働きもせず自堕落な生活を送る北原十和子は、恋人の佐野陣治と共に暮らしながらも、かつての恋人・黒崎俊一のことを忘れられずにいた。ある日、腕時計の故障の件でクレームを入れた百貨店の店員・水島と知り合った十和子は、彼との関係を深めていき、肉体関係を結ぶようになる。水島に黒崎の影を重ねる十和子だったが、ある時十和子の住まいに警察が訪ねてきて、黒崎が5年前に失踪したことを伝える。その事実を知った十和子は、同居人の陣治が事件に関わっているのではないかと疑い始めていく…
【原作】
原作は沼田まほかるさんの同名小説『彼女がその名を知らない鳥たち』です。
- 作者: 沼田まほかる
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2009/10/01
- メディア: 文庫
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本作は、今年公開された『ユリゴコロ』に続いて、沼田まほかるさんにとって2作目の映画化作品になります。
映画『ユリゴコロ』と原作小説『ユリゴコロ』(ネタバレありの感想)
以前『ユリゴコロ』のレビューでも書いた通り、沼田さんは56歳で小説家デビューした遅咲きの作家で、「イヤミスの女王」とも呼ばれています。
本作はデビュー作の『九月が永遠に続けば』の翌年に発表された第2作目の小説になります。沼田さんの持ち味である、インモラルなキャラクターたちが織り成すイヤな味わいのミステリーが存分に発揮された作品で、20万部を超えるベストセラーとなっています。
作者は、かつて僧侶をしていた経歴があるそうで、そういった経験が、業の深い人間を描くのに活きているのかもしれません。
【スタッフ・キャスト】
本作のメガホンをとったのは白石和彌監督です。
白石監督は『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』で小説を原作とした映画を監督していますが、どちらも実録もののため、フィクション小説の映画化は本作が初めてとなります。ノンフィクション小説の場合は実在する人物に対しての誠実なアプローチが必要ですが、フィクション小説の場合は作者の思いを汲み取っての映像化が必要となります。監督もその部分を十分に意識したとのことで、原作へのリスペクトはしっかりと残っていました。来年公開される白石監督作の『狐狼の血』にも期待が持てる出来になっていました。
本作の脚本を手掛けたのは浅野妙子さん。浅野さんは『NANA』や『大奥』など、恋愛ものを多く手掛ける脚本家で、白石監督とは初タッグになるのですが、監督と脚本家の持ち味のいいところが出た仕上がりになっていました。
主人公・十和子を演じたのは蒼井優さん。性悪な女の顔と薄幸な女の顔を併せ持つ難しい役どころを見事に演じており、この役は蒼井優さん以外無理だろと思わせるほどでした。
十和子の恋人・陣治を演じたのは阿部サダヲさん。阿部さんの人柄や普段の役のイメージから、はじめは陣治を演じるには誠実な人という印象が強過ぎるのではないかと危惧していたのですが、徹底したビジュアルの作りこみと役作りで、本当に汚くて下品な男に見えたので驚きました。
【私的評価】
90点/100点満点中
原作に対してとても誠実に作られている印象で、監督が小説に惚れ込んだのだということがとても伝わってくる映画でした。
改変された部分は多くはないものの、映画的なギミックを活かした見せ方でキャラクターたちの心情を上手く捉え、面白く見せる工夫が施されていました。
ラストに明かされる真実にアクセントを加えることによって、愛の物語としての純度が原作よりも高まっていました。
以下ネタバレあり
続きを読む映画『あなた、そこにいてくれますか』と原作小説『時空を超えて』(ネタバレありの感想)
今回紹介する作品は、
映画『あなた、そこにいてくれますか』です。
【あらすじ】
優秀な小児科医のスヒョンは、30年前に亡くした恋人・ヨナの事を忘れられずにいた。ある時、医療ボランティアで訪れたカンボジアで赤ん坊を救ったスヒョンは、お礼として老人から10錠の錠剤が入った小瓶を受け取る。その錠剤を服用してみると、なんと彼は30年前の1985年にタイムスリップしていた。そこで若き日の自分に出会ったスヒョンは、片割れにヨナの死が近いことを伝えてしまう。若きスヒョンはヨナの死を回避しようよと奔走するが、現代を生きるスヒョンには別の女性とともに生んだ最愛の娘がいた…
【原作】
原作はフランス人作家ギヨーム・ミュッソさんの小説『時空を超えて』です。
小学館から出版されていた『時空を超えて』の文庫本は今は絶版となっているのですが、この度の映画の公開に合わせて『あなた、そこにいてくれますか』のタイトルで潮出版社から復刊しています。(映画版と同じタイトルですが映画のノベライズではなく、原作通りの内容です。)
原作者のギヨーム・ミュッソは元々高校教師だったのですが、処女作『Et,Apr`es…』で鮮烈なデビューを果たし、一気にベストセラー作家に上り詰めた人物です。
本作は彼が高速道路でガードレールに激突する交通事故を起こし、死というものを深く考えるようになったことがきっかけで生まれた作品でだそうです。
ミュッソ氏は自身の作品を映像化することにはとても慎重で、ヒット作を次々と発表するベストセラー作家であるにもかかわらずこれまで映画化された作品は『Et,Apr`es…』を原作にした『メッセージ そして、愛が残る』のみです。ミュッソ氏の眼鏡にかなったスタッフやキャストでないと映画化に至らないそうなので、本作はその段階をきちんとクリアした一流の製作陣によって作られた作品だと言えます。
【スタッフ・キャスト】
本作のメガホンを取ったのは、『キッチン〜3人のレシピ〜』や『結婚前夜〜マリッジブルー〜』などを手掛けたホン・ジヨン監督です。
ホン監督は『殺人の追憶』のポン・ジュノ監督や『八月のクリスマス』のホ・ジノ監督などを輩出した韓国映画アカデミーの14期卒業生で、夫は韓国版映画『アンティーク 西洋骨董洋菓子店』を手掛けたミン・ギュドン監督です。
女性ならではの細やかな視点で、ラブロマンス映画を中心に、安定した良作をコンスタントに撮っており、ヒット作を連発しています。
本作では監督の他に脚本・脚色も担当しています。
青年期のスヒョンを演じたのはピョン・ヨハンさん。ピョンさんは兵役中に原作本を読んでいたそうで、除隊後に演技を始め、しばらく経ってから本作出演のオファーを受けたそうです。思い入れのある作品だけあって、若きスヒョンの苦悩を繊細な演技で見事に演じ切っていました。
50代のスヒョンを演じたのはキム・ユンソクさん。映像化に慎重なギヨーム・ミュッソが映画化を許諾したのは『チェイサー』での彼の演技を見たからだそうで、この人無しでは映画化は成し得なかったといえます。ギヨーム氏の期待通り、成熟した演技で映画全体の空気感を作り出しており素晴らしかったです。
【私的評価】
85点/100点満点中
原作はフランス人作家がアメリカを舞台に書いた小説なのですが、舞台を韓国に移したことによる違和感をまるで感じさせず、原作へのリスペクトを込めながらしっかりと映像化されていました。
作中のタイムリープによる物語上の矛盾も少々あるものの、人間ドラマとサスペンスを見事に合わせた巧みな構成になっていました。
以下ネタバレあり
続きを読む映画『ナラタージュ』と原作小説『ナラタージュ』(ネタバレありの感想)
今回紹介する作品は
映画『ナラタージュ』です。
【あらすじ】
映画配給会社に勤める工藤泉は、ある雨の日学生時代のことを思い出していた。大学2年の時、泉の元に一本の連絡が入った。電話の主は高校時代の演劇部の顧問だった葉山であった。葉山は現役部員の少ない演劇部のために、学園祭での公演に協力して欲しいと泉に申し出た 。戸惑う泉であったが、申し出を受け入れ演劇部に協力することになったが、泉と葉山の間には教師と教え子の関係を超えた過去があった…
【原作】
本作は島本さんが20歳の時に執筆した恋愛小説で、「この恋愛小説がすごい!2006年版」や「本の雑誌が選ぶ上半期ベストテン」で1を獲得し、山本周五郎賞にもノミネートされた作品です。
小説の主人公である泉同様、島本さんの大学在学中に執筆された本作は、ヌーヴォーロマン(アンチロマン)作家のマルグリット・デュラスに強い影響を受けて書かれた作品だそうで、特に『愛人/ラマン』で描かれていた“少女期の終わり”の描写にインスパイアを受けたそうです。
【スタッフ・キャスト】
本作のメガホンを取ったのは『世界の中心で、愛をさけぶ』や『パレード』などを手掛けた行定勲監督です。
本作は行定監督が『世界の中心で、愛をさけぶ』の後から映画化を打診されていた作品で、実に12年間の構想期間を経てついに映像化が実現した作品です。
漫画原作のピュアな恋愛映画がヒットしていく中で、シリアスな風合いの強い本作の映画化は難航していたそうですが『ピンクとグレー』で行定監督とタッグを組んだ小川真司プロデューサーの「葉山先生役を松本潤にしてみてはどうか」という提案を機に、一気にプロジェクトが進んでいったそうです。
行定監督としては『クローズド・ノート』以来の純粋な恋愛映画という位置づけになるそうです。
主人公の泉を演じたのは有村架純さん。行定監督が「自覚はないが実は魔性の女」と語る泉にぴったりのキャスティングで、自分の思いが実らないことを感じながらも先生のことを思い続ける強さを持った女性を好演していました。
葉山先生を演じた松本潤さんは普段のアイドルらしい輝きを抑え、憂いさの漂う放っておけない男性を見事に体現していました。何より松本さんがこれまで演じてきたキャラクターのどれよりもエロさが際立っており、眼鏡をかけてあの弱々しい表情をされると男でもドキッとしてしまうほどでした。
【私的評価】
75点/100点満点中
ポップで爽やかな恋愛映画がトレンドになりつつある昨今の映画業界の中で、本作は大人のビターな恋愛をメインテーマにしておりとても好感が持てました。
原作小説の要所をちゃんと抑え、物語の核となる男女の曖昧な関係もきちんと描いていました。特に男性監督が撮ったということもあって、男のどうしようもなさはかなり際立っています。
ただ、恋愛映画としてはシリアスさが強い作品なので、鈍重な展開が2時間強続くのはちょっとしんどかったです。
以下ネタバレあり
続きを読む映画『僕のワンダフル・ライフ』と原作小説『野良犬トビーの愛すべき転生』(ネタバレありの感想)
今回紹介する作品は
映画『僕のワンダフル・ライフ』です。
【あらすじ】
短い犬生を終え、再び子犬としてこの世に戻ってきたベイリーは、ある猛暑の日、車の中に閉じ込められぐったりとしているところをイーサンという少年に救われる。イーサンはベイリーを飼い犬にし、遊ぶ時も寝る時もほとんどの時間を共に過ごしていた。イーサンは成長し、ハンナという恋人もできたが、彼の家族の問題や自宅の火事など様々な問題に巻き込まれ、ハンナとも別れることになってしまった。ベイリーも次第に年老いていき、老衰していったベイリーはこの世から旅立つことになった。しかしベイリーが目を覚ますと、彼はシェパードに生まれ変わっており、警察犬としての犬生が始まるのだった…
【原作】
原作はW・ブルース・キャメロンさんの小説『野良犬トビーの愛すべき転生』です。(原題は『A Dog's Purpose』直訳すると“犬の目的”)
本作は、2010年にアメリカで発表されニューヨークタイムズのベストセラーランキング第1位の座を1年間キープし続けたベストセラー小説です。
2012年には続編にあたる『A Dog's Journey(直訳:犬の旅)』が出版されています。
作者のW・ブルース・キャンベルさんは全米で人気のコラムニストだそうで、これまでに出版した本は小説よりもコラムやエッセイのほうが多いようです。
彼の書く小説にはコラムニストらしいユーモアが交えられており、面白い言い回しや、なかなか思いつかなかった着眼点が多分に盛り込まれいます。
本作が執筆されたきっかけは、キャンベルさんの恋人であるキャスリン・ミションさんが、初めて買った愛犬を失い失意の中にいる様子を見て、心の痛みを感じたことがきっかけだったそうです。キャンベルさんはミションさんにこの物語を誰よりも先に利かせたそうで、そのストーリーを聞いた彼女は号泣したそうです。そして彼女は本作の脚本を担当しています。
【スタッフ・キャスト】
本作のメガホンをとったのは『ギルバート・グレイプ』や『サイダーハウスルール』などを手掛けたラッセ・ハルストレム監督です。
本作はラッセ・ハルストレム監督にとって『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』『HACHI 約束の犬』に続く3本目のワンちゃん映画になります。
ハルストレム監督は実生活でも犬を飼っている愛犬家だそうで、本作の“生まれ変わり”という超現実的な設定以外は、犬の行動原理をリアルに描写しようと努めたそうです。
本作の主人公の犬たちの声を当てたのはジョシュ・ギャッドさん。『アナと雪の女王』でサイドキックのオラフの声を演じ、実写版『美女と野獣』ではル・フウ役を演じたコミカルな演技に定評のある役者さんです。彼の声はとても面白く、無垢で純粋な犬たちの声にぴったりと合っていました。
老年のイーサンを演じたのはデニス・クエイドさん。ハルストレム監督とは映画『愛に迷ったとき』以来、20年ぶりのタッグになります。円熟した味のある演技で、どこか物寂しさのある男を好演していました。
本作に登場するワンちゃんたちは、いずれも演技経験のあるタレント犬ではなく、アニマルレスキューの団体や、シェルター、ブリーダーの伝手を探して見つけた犬たちだそうです。ですが、どのワンちゃんたちも自分の役を見事に演じきっており、経験のなさは感じませんでした。(ですが、警察犬の救助の撮影シーンを巡って動物愛護団体とトラブルになったことはあったそう…)
【私的評価】
74点/100点満点中
本作はワンちゃんが4回の転生をするのですが、犬が死にゆく描写には涙腺が刺激され、3回ほど泣きそうになりました。
原作から省略されている描写が多々あり、小説版と比べるとベイリーの苦難が多少マイルドになっている気はしましたが、その分彼が人生ならぬ犬生について考える哲学的要素が原作よりも増幅していて面白かったです。
個人的にはもう少し転生の意味が感じられる演出がほしかったなと感じる部分もありました。
以下ネタバレあり
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