雁丸(がんまる)の原作代読映画レビュー

原作読んで映画レビューするよ!

映画『PとJK』と原作漫画『PとJK』(ネタバレあり)

 

今回紹介する作品は

映画『PとJK』です

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【あらすじ】

警察官の功太は合コンで大学生のカコと出会い、2人は惹かれあう。しかし、大学生だと思っていたカコが実は女子高生だと知り、功太はカコを冷たくあしらう。互いの気持ちに気づきながら、警察官という立場から女子高生とは付き合えないと自制していた功太だったが、カコの一途な思いを知り、彼女と正々堂々と一緒にいられるようにと、カコへ「結婚しよう」とプロポーズをする。

(映画.com様より抜粋)

 

【原作】

原作は三次マキさんの同名漫画『PとJK』です。

本作は累計発行部数300万部を突破した大ヒットコミックで、日本出版販売が主催する「全国書店員が選んだおすすめコミック2014」では14位位にランクインした作品です。

 

「高校生の結婚」「バレてはいけない共同生活」「年の差婚」「ツンデレ男子」などのときめき要素てんこ盛りで、恋愛物語としてだけでなくコメディとしても楽しめる漫画です。

 

 漫画は現在9巻までが既刊されていますが、映画版では文化祭のエピソードや大神の家庭問題のエピソードが出る4巻までが元になっています。

 

【スタッフ・キャスト】

本作でメガホンをとったのは「ストロボ・エッジ」や「オオカミ少女と黒王子」などを手掛けてきた廣木隆一監督です。

 廣木監督はラブコメ映画を数多く手掛けており、日本映画界では三木浩介監督と並ぶ恋愛映画の職人監督です。近年では少女漫画の実写化を立て続けに制作しており、本作もその一つです。

脚本を務めたのは「RIVER」で廣木監督とタッグを組んだ経験のある吉川菜美さんです。

 

映画版で音楽を務めたのは大橋トリオの名義でも活動をしている大橋好規さん。コミカル過ぎず、甘過ぎない音楽で映画にぴったりのサウンドになっていました。

 

主演を務めたのは土屋太鳳さんと亀梨和也さん。

映画版の登場人物の中では、功太役を演じた亀梨さんが原作のキャラクターのビジュアルに一番近く、ビジュアル面だけでなく厳しい目つきの時と優しい表情の時のギャップなども原作の功太に寄せていて好感がもてました。

 

私的評価】

69点/100点満点中

映画版は中盤まで原作をなぞらえており、終盤からオリジナルのストーリーが展開されるのですが、そのラストで功太が語る話が原作でもまだ言及されていないテーマに踏み込んでいて非常に良かったです。

 

ただ、功太とカコが結婚に至るまでの流れがあまりにも早急過ぎて、映画の序盤なのにいきなり主人公たちの思考に観客がおいてけぼり感を感じてしまうのは否めなかったと思います。

監督はコミック版と映画版の差別化を図るために意図的に原作からギャグ要素を削ったそうですが、やはりどうしてもコメディ面の物足りなさも少し感じました。

 

 

 

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

 

【原作との比較】

上記の通り、映画版では原作の1巻から4巻までをなぞらえていますが、少しだけエピソードをカットしたり若干時系列を変えたりしています。

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原作にあったさくらまつりでのエピソードや功太の姉が自宅に襲来するエピソードなどを省き、その代わりに自分のことを多く語らない功太と、功太のことを知りたいカコの思いを原作より濃く描いていました。

映画版のラストでは原作で語られていない「大切な人のために死ぬ覚悟」というテーマについて言及しており、原作とは違ったアプローチでストーリーが展開されています。

 

【原作からの改良点】

原作で描かれていた大神の家庭問題に、映画版ではカコと友達のミカドとジローが荒れ果てた大神の自宅を片付けるオリジナルのシーンをくわえています。

原作では大神の家庭問題にカコは大きく関わらないのですが、このシーンを加えることで学校ではぐれものだった大神とカコ達の絆がより強まったように感じられました。

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映画終盤、拉致されたカコを功太が救出に向かい、不良集団にナイフで襲われそうになったカコを功太が体を張って守るという展開があります。

このシーンは映画版オリジナルなのですが、物語序盤でカコが功太を守るシーン(これは原作と同様)と対になっており、原作のエピソードを生かしたオリジナルの良い構成になっていました。

 

【本作の不満点】

映画版の功太とカコの結婚までの流れは、いくらなんでも早すぎるように感じました。

原作ではカコが功太に対して好きという思いを伝え、功太に「君の彼氏にはなれない」と断られてからお互いに葛藤や一波乱があり、功太が「結婚しよう」とプロポーズするのですが、映画版では「彼氏にはなれない」から「結婚しよう」までの流れが病室内の1シーン(3分ほど)で片づけられてしまうので、観客が感情移入できなどころか功太が短絡的な人間にすら見えてしまいます。

一目惚れならまだしも、出会って数時間でプロポーズするのは全然乗れなかったです。

 

映画版では制服を着て職務中の功太とカコが話す場面がほとんどなく、原作にあったような職務中のお堅いモードの功太がカコを冷たくあしらうシーンあまり見られません。

 原作では勤務中のクールな功太を見せることで、カコと2人きりの時のデレモードの可愛らしさが引き立っていたので、映画版は物足りなかったです。

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 映画終盤、カコを守って負傷した功太が病室で目を覚ますシーン。カコが無事でよかったと安堵する功太に対して、カコは自分自身のことを大事にしない功太を責め「警察官の妻になんてなれない」と指輪を置いて立ち去ってしまいます。

トーリー展開的に2人を引き裂く動機が必要だったとはいえ、瀕死の夫に対してのこのカコの言動は少し不自然に思いました。一応ラストにカコが「ごめんなさい」というセリフもありますが、このシーンでのカコの態度はひどいように感じました。

 

【大神という存在】

カコのクラスメイトで不良グループとつるんでいる問題児 大神はこの物語のキーとなる人間です。

恋愛ものとしては完全なる当て馬としてのキャラクターですが、功太にとってもカコにとっても重要な人物です。

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 大神は「高校生としてのカコ」の象徴でもあります。功太がカコの夫としての面と警察官としての面の二面性を持っているように、カコも功太の妻としての面と高校生としての面を持ち合わせています。

若くして結婚したカコが、高校生らしく過ごす象徴として大神がいます。カコと大神が握手をして友達になるシーンに高校生同士の絆が色濃く描かれていました。

 

功太にとっての大神は自分の高校時代の投影です。

大神を家庭内暴力から救った功太は、引っ越すために町を出る前の大神に「どんな人間にもなれるよ」という言葉を伝えます。

かつて不良で父といつも対立してきた自分が警察官になったように、若いうちはどんな可能性も秘めていることを大神に伝えることで、功太は父の意思を受け継いだのかもしれません。

 

【功太の過去】

高校時代不良で父とうまく付き合えなかった功太は、ある事件に巻き込まれ目の前で父を亡くしてしまいます。功太は父の後を追うように警察官になるのですが、いまだに過去を引きずったままでいます。

功太の上司である山本さんがカコに対して彼の高校時代の話をするのですが、ここでは過去の話は全てせず、父の存在を匂わせる程度にして、功太自身にカコにかつての自分の話を告白させてほしかったです。

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 功太は不良グループに拉致され襲われそうになったカコを見を呈して守ります。

父が自分のことを命をかけて守ってくれたように、警察官としてカコを決死の覚悟で救うのですが、この行動がカコを不安にさせてしまいます。

 自分の過去に捕われたままの功太は、警察官として命を捨てる覚悟を持っているのですが、カコの夫としての自分ことを考えていなかったのです。

この展開がラストにしっかりと活きてきます。

 

【大切な人を守るということ】

 映画ラスト、防災教室でカコの学校を訪れた功太は「なぜ危険な警察官という職業についたのか」と問われ、自分の過去にあった出来事のことと、大切な人から命を大切にすることを教わったことを話します。

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 父の背中を追い、命を捨てる覚悟で警察官という仕事をしてきた功太でしたが、カコの言葉を受け、警察官としてではない「カコの夫としての自分の存在」をようやく自覚したのです。

今までは大切な人のために死ぬ覚悟を持っていた功太でしたが、大切な人のために生きることを学び決意を固めます。

講演終了後、校内で再会した二人。功太は過去に対して「一緒に生きていってください」とプロポーズをします。

物語中盤でカコが康太に尋ねる「警察官じゃない功太くんはどこにいるの?」という問いに対しての答えがしっかりと示されたエンディングになっていました。