雁丸(がんまる)の原作代読映画レビュー

原作読んで映画レビューするよ!

映画『ワンダーウーマン』と原作コミック『ワンダーウーマン』(ネタバレあり)

今回紹介する作品は

映画ワンダーウーマンです。

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【あらすじ】

アマゾン族と呼ばれる女性だけが暮らす島セミッシラ。その島の女王の娘ダイアナは、アマゾン族の女たちに育てられ、屈強な戦士として育てられてきた。そんなある日、セミッシラに他国から飛んできた飛行機が不時着する。その飛行機を操縦していたのはアメリカ外征軍の大尉・トレバーという男であった。ドイツ軍の侵攻によって世界中で数多の犠牲者が出ていることを知ったダイアナは、軍神アレスを倒し戦争を終わらせるためトレバーと共にセミッシラを旅立つのだった…

 

【原作】

原作はウィリアム・モールトン・マーストンのコミックが祖となり、現在までシリーズ化されているアメリカンコミックワンダーウーマンです。

米国では1941年から現在に至るまで刊行されているシリーズですが、日本ではワンダーウーマン単体の単行本はまだ4冊ほどしか発刊されていません。逆に言えば、今からコミックを集めても十分揃えきれる作品ではあります。 

以下の4作が、現在日本語訳され刊行されているワンダーウーマン単体のコミックスです。

ワンダーウーマンというキャラクターを知るために取っつきやすいアンソロジー 

ワンダーウーマン アンソロジー

ワンダーウーマン アンソロジー

 

 ↓ワンダーウーマンのバトルシーンに重きを置いたベストバウト

ワンダーウーマン:ベストバウト (ShoPro Books)

ワンダーウーマン:ベストバウト (ShoPro Books)

 

 ↓正史をベースにしながら、舞台を現代に切り替えて語りなおしたアースワン  

ワンダーウーマン:アースワン (ShoPro Books)

ワンダーウーマン:アースワン (ShoPro Books)

 

 ↓映画版には登場しなかった半獣の女・チーターが登場するDCリバースというシリーズのザ・ライズ 

ワンダーウーマン:ザ・ライズ (ShoPro Books DC UNIVERSE REBIRTH)

ワンダーウーマン:ザ・ライズ (ShoPro Books DC UNIVERSE REBIRTH)

 

 

ワンダーウーマン単体の単行本ではないもののDCユニバースのアンソロジーとして、彼女のエピソードが登場するコミックもあります。

ワンダーウーマン初登場のエピソードが収録されているDCコミックスアンソロジー  

DCコミックス アンソロジー

DCコミックス アンソロジー

 

 ↓NEW52!というシリーズでのワンダーウーマンの生い立ちが収録されているDCキャラクターズ:オリジン 

DCキャラクターズ:オリジン (ShoPro Books THE NEW52!)

DCキャラクターズ:オリジン (ShoPro Books THE NEW52!)

 

 まだ日本語訳がされていないコミックも多いですが、更に気になる方は電子書籍や輸入盤で英文のコミックを読んでみるのもありだと思います。 

Wonder Woman Vol. 1: Blood (The New 52)

Wonder Woman Vol. 1: Blood (The New 52)

 

 ワンダーウーマンは、DCコミックスにおいて“トリニティ”と呼ばれる3大ヒーロー(スーパーマンバットマンワンダーウーマン)の一角で、本国では絶大な人気を誇るキャラクターです。

トリニティの3人をはじめとするDCコミックのヒーローたちは、いずれも長期シリーズのため、ストーリーラインに矛盾が生じることも多々あります。そのためDCでは「多元宇宙(マルチバース)」と呼ばれる概念を用いており、同一のヒーローでも別の世界線にいるということにして、矛盾を解消したり、設定を仕切り直したりしています。(マーベルもDCの後追いで似たような設定を導入)

なので、今回の映画版も「これが絶対的な原作エピソード」と呼べる作品がなく、様々な世界線から要素を抽出しているような形になっています。

 
 原作者のマーストンは著名な心理学者であり、嘘発見器を開発に携わった発明家でもあります。ワンダーウーマンに登場する“真実の投げ縄”は嘘発見器の投影とも言われています。

また、マーストンは妻のほかにオリーブ・バーンというもう一人のパートナーがいたそうで、ダイアナのキャラクター造形にはオリーブの存在が多大な影響を与えているそうです。

 

 【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『モンスター』を手掛けたパティ・ジェンキンス監督です。

モンスター [DVD]

モンスター [DVD]

 

監督にとっては『モンスター』以来、14年ぶりの長編映画監督作になります。

ジェンキンス監督は、DCEUの企画が立ち上がる以前からワーナーブラザーズに対して「私にワンダーウーマンを撮らせてほしい」をアプローチを掛けていたそうで、その念願がかなって本作の監督に抜擢されました。その結果、本作の大ヒットにより女性監督作品で歴代第1位となる興行収入をあげています。(その他の監督候補には『ブレイキング・バッド』や『ゲーム・オブ・スローンズ』の女性プロデューサー・ミシェルマクラーレンさんも挙がっていたそう)

 脚本には2006年からワンダーウーマンのコミックのシナリオを手掛けているアラン・ハインバーグさんが関わっており、コミックの世界観も丁寧に組み込まれています。

ヒロイン・ダイアナを演じたのはガル・ガドットさん。イスラエル国防軍で戦闘トレーナーとして勤めていた経験を持つ彼女は、コミックのダイアナを現実世界にそのまま映し出したような佇まいで、逞しすぎるワンダーウーマンを演じるにはこれ以上の適役はいないのではないかと思わせてくれる存在感でした。 

 

【私的評価】

68点/100点満点中

 本作はDCコミックスの映画化プロジェクトであるDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)の第4作目になるのですが、その4作の中でも一番出来のいい作品になっていたと思います。

女性の地位が低かった時代を、物語の舞台背景にしたことで女性ヒーローのたくましさがより引き立ち、特に第2幕の展開は、男性を率いる女性のカッコよさと、民衆を救い出すヒーローとしてのカッコよさが両立した素晴らしいシークエンスに仕上がっていました。

 ただ、クライマックスにかけての展開に様々な矛盾を感じもやもやするところもありました。

 

 

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

 

【原作との比較】

前にも述べた通り、本作は原作コミックの様々なエピソードから要素を抽出し物語を組み立てています。

ダイアナとトレバーの恋愛関係や、主人公の装備などの基本設定はマーストンの正史に沿っていますが、ダイアナの出自が実はゼウスの娘であったという設定(正史では土で作った体に神が命を宿した設定)は“NEW52”というシリーズから拝借したのものだったり、映画版の彼女の衣装は“DCリバース”というシリーズでのコスチュームに寄せていたりと、多数のエピソードから要素を取捨しています。

映画版に登場するメインのヴィランは、アレスとドクター・ポイズン。アレスはワンダーウーマン、もといアマゾン族の宿敵として、何度も原作に登場するメインキャラの一人です。ドクター・ポイズンはアレスと比べると登場回数は多くないものの連載初期のころから登場しているキャラクターで、マーストンの描いたコミック中では、ドクター・ポイズンの正体は日本人の科学者という設定になっています。

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ダイアナが生まれ育った島・セミッシラは原作では高度に文明の発達した国なのですが、映画版は原作と比べると文明が少々後退気味になっています。原作と同じく“服従の腕輪”や“真実の投げ縄”は登場します(ゴッドキラーはDCのヴィランキャラクター・デスストロークの所持物)が、透明になれる不可視の飛行機・インビジブルプレーンや、紫の光を放ち怪我人と治療する医療機器は登場しません。

原作では、セミッシラのアマゾン族たちがヘラクレスによって奴隷に身を落とされていた過去が描かれてます。ヘラクレスに虐げられていたかつての歴史から、アマゾン族の人々は男に対して不信感を抱いているのですが、映画版ではそのような描写はありません。男に屈しない女性ヒーローの活躍を描くために、男性嫌悪的な描かれ方にならないように気を使ったのかもしれません。

 

【原作からの改良点】

ワンダーウーマンが初めてコミックに登場したのは1941年。当時は第二次世界大戦のさなかだったため、コミックにもその時代背景が反映されています。対して今回の映画版ワンダーウーマンの舞台は1918年ごろの第一次世界大戦末期を舞台としており、原作コミック初期の時代背景からは20年以上遡っています。製作者によると婦人参政権が始まった時代にワンダーウーマンを登場させたかった」とのことで、女性の地位がより低かった時代に女性ヒーローを登場させることで、彼女のたくましさを際立たせていました。

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第一次世界大戦を舞台にして作られた本作は、当時の史実を作中に盛り込んでいます。敵役として登場するドイツ軍のルーデンドルフ総監は実際に実在した人物(エーリヒ・ルーデンドルフ大将)で、一時は「ルーデンドルフ独裁」と呼ばれるほどの実権を握った男です。休戦のために動いていた同軍の将校・ヒンデンブルクも同じく実在の人物です。史実ではルーデンドルフヒンデンブルクの補佐官だったのですが、ルーデンドルフのほうが軍の頭脳的な存在だったそうなので、映画版の中でのヒンデンブルクが出し抜かれる展開もそう遠くはないのかもしれません。(両者とも実際の第一次世界大戦では亡くなっていません)

 本作の一番の見どころは、なんといってもワンダーウーマンが男性兵士たちの先陣を切り塹壕を出て戦うシーンです。いわゆるノーマンズランド(no man's land)と呼ばれる兵士たちが突破できない激戦地をワンダーウーマンが歩み行くシークエンスは、本作中どころかDCEUシリーズでも屈指の名シーンに仕上がっています。個人的にはあのシーンで絵画民衆を導く自由の女神を想起するほどでした。

 

【本作の不満点】

映画のクライマックス、ルーデンドルフがアレスでないことに衝撃を受けるダイアナに対し、トレバーが「みんな誰かを悪者にしたがる、だがそうじゃない。戦争はみんなの責任だ、僕の責任でもある」と語る戦争の本質を突く良いセリフがあるのですが、その後の展開で、パトリック卿がアレスであることが発覚し、戦いの末にアレスを倒したワンダーウーマンは戦いを終結させます。

その展開のせいで結局アレスが全ての戦いの元凶であるように見え、せっかくのトレバーの「戦争はみんなの責任」というセリフが意味なく感じられてしまいました。

もう一つクライマックスの展開で不満なのが、トレバーの自決を目の当たりにしたダイアナが世界に絶望し、怒り任せにドイツ軍の兵士をぶっ飛ばす戦い方を繰り広げるシーンです。闇堕ちし、大暴れする彼女を見てアレスが嬉々としているのですが、塹壕から村に向かう戦いのシークエンスで、既に彼女はドイツ兵を割と容赦なくぶっ飛ばしていた(DCEU特有の大雑把な戦い方)ので、さほど闇落ちした感がありませんでした。

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ワンダーウーマンは「人間は救うに値しない」 と語る軍神アレスと対立し、人々を救うために戦います。ドイツ軍の科学者ドクター・ポイズン(マル博士)がワンダーウーマンの前に現れると、アレスは「その哀れな女のように人間は救うに値しない」と持論に拍車をかけ、彼女を揺さぶります。

最終的にダイアナはドクター・ポイズンに戦車を投げつけ割とあっさり倒します。ドクター・ポイズンは殺戮のための毒ガスを作り出し、村人を死に至らしめた人物なので当然倒されるべき敵ではあるのですが、あの流れで倒されるとアレスの言っている通りになっている気がして、なんだかモヤモヤしました。

あと細かい部分では、パトリック卿に扮したアレスと対峙したダイアナが、ルーデンドルフ総監にゴッドキラーを突き刺したままだったことに気づき一瞬ピンチっぽくなるのですが、一度カットが変わると普通に回収できていたので、ピンチっぽく見せる必要性が全く分かりませんでした。

 

【強く、正しく、美しく】

 女性だけの島セミッシラで育ったダイアナは、外の世界の不可解なルールに迎合することなく、自分の意見を男に対してはっきりと明言します。

本作の舞台である1918年はイギリスにおいて女性に初めて参政権が認められた年で、女性の社会進出が謳われ始めた時代です。ですが、この時の女性の参政権は31歳以上という縛りがあり(男性は21歳から選挙権が認められている)平等な普通選挙権とは言えませんでした。女性を社会進出させておきながら、根底には女性蔑視的な思想が漂う社会が、この映画にも色濃く映し出されています。f:id:nyaromix:20170918105606j:plain

 イギリス軍の将校たちは会議の場に女性が入ってくることを強く糾弾し、ダイアナの意見をなかなか聞き入れようとしません。不毛な会議に明け暮れるばかりで何も行動しない将校たちにしびれを切らしたダイアナは、トレバーと共に激戦地である西部戦線へと向かいます。

しかしその戦地においても、兵士たちは塹壕に留まるばかりで、目の前にある村がドイツ軍に襲われていても救出をためらってばかりいました。そんな状況に憤ったダイアナは、トレバーの制止を振り切り銃弾の飛び交う戦地へと飛び出します。彼女の行動が皮切りとなり、イギリス軍は防衛線を突破し村人たちを救い出すのでした。no man's landをwomanが突き進という何とも洒落の効いた熱い演出がたまらなく良かったです。

ダイアナが村人たちから喝采を送られる様も、ヒーローをヒーローたらしめる王道ながらもしっかりと熱いシーンでした。

 

【何もしないか行動するか】

イギリス軍諜報部でスパイ活動を行うアメリカ外征軍の大尉・トレバーは、不正を前にしたとき人は2つに分かれる。何もしないか、行動するか」という父が最後に残した言葉を胸に抱き、形見である腕時計を肌身離さず持ち歩いて敵地に赴きます。

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ドイツ軍の基地で毒ガス爆弾を積んだ 爆撃機を目撃したトレバーは、自らを犠牲にしてでも攻撃を止める決意をします。爆撃機に乗り込む直前、トレバーはダイアナに対して腕時計を手渡し「僕は今日を救う、君は世界を救え」と言い残します。そして飛行機に乗り込み空高くへと飛び立った彼は、上空で毒ガスを爆発させ爆撃を食い止めたのでした。父が残した言葉の通り彼は行動する人間となり、その思いをダイアナに託して散っていったのでした。

 

【愛を信じる】

 父ゼウスが作り出した人間を忌み嫌う軍神・アレスは「人間は救うに値しない」とダイアナに説き、手を組まないかと持ち掛けます。セミッシラから旅立つ前、母である女王ヒッポリッタからも「人類はあなたが救うに値しない」と言われていたダイアナは、その言葉に葛藤し、トレバーの死を目撃すると、人間に絶望し兵士たちを容赦なく蹴散らしていきます。

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しかし、トレバーが最後に残した言葉を思い出したダイアナは、もう一度人を信じる心を取り戻します。人間は滅びるべき種族だと言い放つアレスに対し「私は愛を信じる」と宣言し、覚醒した力を解き放ちアレスをうち滅ぼします。

トレバーの行動と言葉で人間の慈愛を知ったダイアナは、その愛の力を武器に誰にも負けないスーパーパワーを獲得し、人類愛をもったスーパーヒロインとなるのでした。

「愛」という、ベタとも受けとられかねないテーマを、恥ずかしがることなくドストレートに掲げ、逃げずに描き切った製作陣に敬意を表したいです。