雁丸(がんまる)の原作代読映画レビュー

原作読んで映画レビューするよ!

映画『ビューティフル・デイ』と原作小説『You Were Never Really Here』の比較(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は、

映画ビューティフル・デイです。   

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【あらすじ】

誘拐された子供の救出を生業とするフリーランサージョー。母と二人で静かに暮らすジョーは、幼少期に父から受けた虐待と、海兵隊・FBI時代に経験したトラウマに苛まれ、いつも自殺未遂を図っていた。そんなある日、ジョーの元に州上院議員・ヴォットより、失踪した娘のニーナを裏社会の売春組織から取り戻して欲しいという依頼が舞い込む。ジョーは依頼通り、売春が行われているビルへと向かったのだが…

 

【原作】

原作はジョナサン・エイムズの小説『You Were Never Really Here』です。  

ビューティフル・デイ (ハヤカワ文庫NV)

ビューティフル・デイ (ハヤカワ文庫NV)

 

 ↑映画の公開に合わせて、映画と同名タイトルで小説の翻訳版が発刊されています。

本著は2013年に電子版でリリースされた作品で、今年20ページ分の書き足しを加えて書籍として発刊された中編小説です。

原作者のジョナサン・エイムズは小説家・エッセイストでありながら、映画・ドラマ業界でも活躍しており、ポール・ダノ主演の映画『The Extra Man』では原作・脚本、TVドラマ『ボアード・トゥ・デス』では企画・製作総指揮を務めるなど実に多彩な作家です。

彼の作品のこれまでの作風は、どちらかというとコメディ寄りのものが多かったのですが、本作はコメディ色をほぼ廃して、シリアスでダーティーな男の物語に仕上げています。

原作中で出てくる売春現場の娼館は、原作者の家の近くに実際にあった建物をモデルにしているそうで、売春業者の使いっ走りとして登場する男も実在のモデルがいるそうです。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『僕と空と麦畑』や『少年は残酷な弓を射る』を手掛けたリン・ラムジー監督です。  

少年は残酷な弓を射る [DVD]

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 ラムジー監督の作品は、ブラックな物語の中に人間の繊細な心情描き出す作風のものが多く、本作もそういった資質がよく表れた作品となっています。シリアスな物語の中にふと笑ってしまうような描写を入れるのもこの監督の特徴で、作中に絶妙に織り交ぜられるブラックコメディ要素が物語に緩急を生み出しています。また、ラムジー監督は本作で脚本も務めており、カンヌ映画祭脚本賞を受賞しています。原作にリスペクトを込めつつ独自の作家性も存分に発揮させており、確かに良く出来た脚本でした。

本作の音楽を担当したのはジョニー・グリーンウッド。世界中から愛されるロックバンド・レディオヘッドのメンバーでありながら、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』や『ファントム・スレッド』などで映画音楽を手掛けたりもする才人です。ラムジー監督とは『少年は残酷な弓を射る』以来2度目のタッグとなり、本作ではエレクトロニックサウンドと低音のストリングスを効かせた劇伴で物語に不穏さを与えていました。

主人公・ジョーを演じたのはホアキン・フェニックス。彼は今作でカンヌ映画祭の主演男優賞を受賞しています。本作で彼が見せる表情は本当に心を病んでしまった男にしか見えず、彼の死んだ目が脳裏に焼き付いて離れませんでした。昨今の映画作品ではヒーローや暗殺者を演じるにあたって体を引き締め筋骨隆々に仕上げる役者が多いですが、彼は逆に体を増量させることに挑んだそうです。原作のジョーのビジュアルとはかなり異なるのですが、映画版のジョーは、その見た目だけで心に傷を負った中年男に見えました。

 

私見

83点/100点満点中

映画前半は原作に忠実に映像化されているのに対し、後半部は監督の作家性がかなり前面に出た脚本になっています。しかしながら、登場人物のキャラクター性はきちんと一貫性が保たれていて、改変部にも好感が持てました。

主人公の弱い部分を原作よりも前面に押し出し、その小説では出番の少なかったヒロインの少女を、主人公にとってのメンター的な役割として引き立てているのも良かったです。

全編を通して流れる低音の劇伴も、ダークでシリアスな物語に良いアクセントを与えていました。

 

 

 

以下ネタバレあり

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映画『のみとり侍』と原作小説『蚤とり侍』の比較(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は

映画のみとり侍です。 

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【あらすじ】

時は江戸。越後長岡藩の勘定方書役として出世街道をひた走っていた小林廣之進は、ある日の歌詠み会で、藩主の牧野備前守忠精が作った歌が良寛の歌に酷似していることを指摘し、忠精の逆鱗に触れてしまう。主君から「猫の蚤取りになって無様に暮らせ」と吐き捨てられた廣之進は、言われるがままに"蚤取り屋"に行き雇ってもらうよう申し出る。しかし、蚤取り屋の実態とは、寂しい女性と床を共にする裏稼業だった…

 

【原作】

原作は小松重男の同名小説『蚤取り侍』です。

蚤とり侍 (光文社時代小説文庫)

蚤とり侍 (光文社時代小説文庫)

 

表題となっている『蚤取り侍』は、短編小説集の中の一作で、今回の映画はこの表題作品の他に2作の短編を織り交ぜて映像化しています。

 原作者の小松重男さんは、元々鎌倉アカデミアの演劇科出身で、卒業後は松竹大船撮影所で『古都』や『愛と死』などで知られる映画監督の中村登に師事した方です。その後は前進座という歌舞伎劇団で文芸演出部を務め、新協劇団という劇団では演出部に就くなど演劇界で精力的に活動されてきました。その演劇映画界で培った知識や演出術が、小松さんの作品の礎となっています。

作家としてのキャリアのスタートはかなり遅咲きで、46歳でデビュー作『年季奉公』を発表。その作品で早速オール讀物新人賞を受賞します。その後は、『鰈の縁側』『シベリヤ』で直木賞候補にノミネートされるなど、めざましい活躍を見せました。(『年季奉公』と『鰈の縁側』は本著の中に収録されています。)

しかし、残念なことに昨年2017年、小松さんは亡くなられてしまい、この映画を観ることは叶いませんでした

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンをとったのは、『愛の流刑地』や『後妻業の女』の鶴橋康夫監督です。 

後妻業の女 DVD通常版

後妻業の女 DVD通常版

 

 鶴橋監督はこれまでの映画作品でもれなく業の深い男女の性愛をテーマにしており、『のみとり侍』もこれまでの作風に漏れず、男女の性愛とその業を描いた作品となっています。鶴橋監督は本作の脚本も務めているのですが、蚤とり屋という男娼商売は確かに存在したものの文献が多くなく、時代考証担当の大石学さん東京学芸大学教授)と共に創作性を織り交ぜつつキャラクターを作り上げていったそうです。

主人公・小林廣之進を演じたのは阿部寛。鶴橋監督とはテレビドラマ「天国と地獄」以来のタッグとなる阿部さんは、愚直すぎる藩士の役がピッタリとはまっており、真面目さとどん臭さのあるキャラクターを好演していました。

 

私見

70点/100点満点中

小松重男さんの短編小説3つを繋ぎ合わせて1本の作品としてまとめた本作。

原作小説の魅力であった、人間の可笑しみや愛おしさがきちんと映像作品として昇華されており、原作者に対してのリスペクトが感じられました。

原作よりも人情劇的に仕上げた演出や、映画オリジナルで加わった政治的展開など映画としての面白さも加えられていて良かったです。

ただ、3つの作品を繋ぎ合わせたことによる歪さも少し感じられました。

 

 

 

以下ネタバレあり

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映画『狐狼の血』と原作小説『狐狼の血』の比較(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は

映画『狐狼の血』です。

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 【あらすじ】

昭和63年、広島県・呉原市。この街では、地場のヤクザ尾谷組と広島に進出を始めた五十子会の下部組織加古村組での小競り合いが続いており、いつ抗争に発展してもおかしくない状況だった。

広島大学出身のエリート巡査・日岡は、呉原東署な刑事ニ課に配属され、マル暴の巡査部長・大上の補佐に抜擢される。2人は加古村組のフロント企業であった呉原金融の上早稲という経理担当者が謎の失踪を遂げた事件の捜査を始めるが、大上の捜査手法は、法律を逸脱した信じがたいものだった…

 

【原作】

原作は柚山裕子さんの同名小説『狐狼の血』です。

孤狼の血 (角川文庫)

孤狼の血 (角川文庫)

 

文芸誌『小説 野性時代』に連載されていた本作は、柚月先生にとってはじめての悪徳警官もので、これまでの作風とは異なる無骨な男たちの物語です(呉原市という架空の街は、作者の過去作でも舞台になっています)。文芸界でも高い評価を受けた本作は、日本推理作家協会賞山田風太郎賞候補、直木三十五賞候補などに選ばれています。

本作の執筆の一因となったのが深作欣二監督作の仁義なき戦いシリーズです。柚月先生が作家としてデビューし数年が経ったある時、笠原和夫の本を読んだ事をきっかけに鑑賞した『仁義なき戦い』第1作目に脳天をかち割られるほどの衝撃を受けたそうで、その後シリーズ全作を鑑賞し、『仁義の墓場』などの東映実録やくざ映画を全て鑑賞したと語っています。とくに本作に大きな影響を与えたのが県警対組織暴力です。『県警対組織暴力』はヤクザとの癒着を厭わない粗暴な刑事(菅原文太)を主人公とした作品で、本作と同じく広島県が舞台となっています(こちらの作品は倉島市という架空の都市)。また、柚月先生は悪徳刑事と新米刑事の対立を描いたバディムービー『トレーニング・デイ』も愛好しているそうで、そういった男くさい映画たちがこの作品の根幹をなしているといえるでしょう。

今年の3月に『孤狼の血』の続編となる『凶犬の眼』という作品が発刊されており、本作の主人公・日岡の数年後の姿が描かれています。そして現在、若き日の大上を描いた『暴虎の牙』という作品が岩手日報で新聞連載中です。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンをとったのは『凶悪』や『彼女がその名を知らない鳥たち』の白石和彌監督です。 

gensakudaidoku.hatenablog.com

監督にとっては『日本で一番悪い奴ら』に続いての悪徳警官ものとなる本作。原作の物語自体が完全に監督の資質に合ったものなので、この抜擢は英断だと感じました。白石監督は『凶悪』や『日本で一番悪い奴ら』に似たテイストの作品を撮ることに抵抗があったそうなのですが、原作のおもしろさに感銘を受け監督を務める決意をしたそうです。

脚本を担当したのは『日本で一番悪い奴ら』で白石監督とタッグを組んだ池上純哉。池上さんはこの作品を“父と息子”の物語としてまとめるよう意識したそうで、この作品へのフォーカスの当て方としてはかなり誠実なアプローチだと感じました。

主人公・日岡を演じたのは松坂桃李。若手ナンバーワン俳優(僕個人の私感)だけあって、実直な新米刑事が徐々に荒々しくなっていく様を熱のこもった演技で熱演していました。

そして、この物語のキーパーソン・大上を演じたのは役所広司。役所さんの芸名は「役どころが広くなる」ことを祈念してつけられた名前らしいのですが、本作では今までの役のイメージとは正反対の雄々しい刑事を演じていて、その名に恥じない好演でした。

 

私見

88点/100点満点中

原作に対して多少のアレンジを加えながらも、物語の根幹を損なっておらず、東映ヤクザ映画にふさわしい骨太な作品になっていました。

原作のウェットな部分を削いで、かなりドライな風合いの作品に仕上げたのも、くどくなくてとても好感が持てました。

原作と異なるクライマックスはやや違和感が残ったものの、男のプライドがぶつかり合う様がカッコよく仕上がっていたので、まぁ悪くなかったかなと思います。

 

 

 

 

 以下ネタバレあり

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映画『ラプラスの魔女』と原作小説『ラプラスの魔女』の比較(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は、

映画ラプラスの魔女です。f:id:nyaromix:20180524193023j:plain

【あらすじ】

大学で地球科学の教鞭をとる大学教授の青江は、とある温泉地で起きた硫化水素による死亡事故について警察から見識を求められていた。死人が出た現場で、事故なのか事件なのかの調査を行う青江の前に、ふらりと1人の少女が現れた。少女は事故時の状況を訊ねるとすぐに立ち去ってしまった。その数日後、別の温泉地で同様の死亡事故が発生し青江はその事故現場へと赴く。似たような事故が立て続けに発生していたが、青江は状況を見るに計画殺人は不可能だと考え事件性を否定。しかし彼の前に再びあの少女があらわれ、事件現場の気象事象をぴたりと言い当てた。少女に対し何者なのかと青江が訊ねると彼女は「ラプラスの魔女」と答えるのだった…

【原作】

原作は東野圭吾の同名小説『ラプラスの魔女』です。 

ラプラスの魔女 (角川文庫)

ラプラスの魔女 (角川文庫)

 

 今更紹介する必要もない気がしますが、ご存知の通り東野圭吾氏は日本で有数の大人気作家です。ミステリー・ファンタジー・ヒューマンドラマ・SFと、様々なジャンルの作品を手掛け、いずれも高い評価を受け、数多くの作品が映画化されています。

理系大学出身の東野さんは『ガリレオシリーズ』をはじめとし、『変身』『虹を操る少年』など、科学的知識を生かした作品を多数手がけており、本作も理系小説家としての作家性が発揮されてた一作と言えます。ですが、ラプラスの魔女』は東野作品の中でも今までの小説とは少々毛色の違う作品となっています。今までの作風通り科学的考証に基づいて物語が展開される部分もあるのですが、非理系の人間ですら引っかかってしまうようなかなりSFチックな部分もあり、科学性と非科学性が綯い交ぜになった不思議なバランスの作品です。(東野さん自身が本作について「デタラメな物語」と語っているほどです)

物語の整合性よりも寓話性を優先した作りのため、かなり好き嫌いが分かれる作品でもあります。展開に引っ掛かる部分は少々あれど、物語のダイナミズムには優れた作品なので、映画化向きと言えるかもしれません。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは日本トップのフィルムメーカー三池崇史監督です。

gensakudaidoku.hatenablog.com 

東野圭吾作品を三池崇史が映画化と聞いて、見る前は「この組み合わせは大丈夫なのか?」と思っていたのですが、『ラプラスの魔女』の物語のダイナミックさは、三池監督と食い合わせが良く、監督の資質に合った題材のように感じました。

脚本を担当したのは『イキガミ』や『神様の言うとおり』などを手がけた八津弘幸さん。「半沢直樹」や「陸王」など池井戸作品のドラマ化脚本を数多く手掛けてきた八津さんは、小説の映像化のためににまとめる能力に定評があるので良い人選だったとおもいます。

主人公の青江教授を演じたのは、人気アイドルグループ嵐の櫻井翔。三池監督とは『ヤッターマン』以来2度目のタッグとなる櫻井さん。彼のインテリで博識なイメージが、青江教授の役柄に良くはまっており、映画用にアレンジされた天然ぽいキャラクター性も彼のイメージとピッタリ合致していました。

物語の鍵を握るキャラクター、円華と謙人を演じたのは広瀬すず福士蒼汰。かなりトリッキーな設定のキャラクターを2人とも説得力を持って演じており、小説界からキャラクターをそのままトレースしたかのようでした。

 

私見

70点/100点満点中

特定の主人公らしいキャラクターのいなかった原作小説に対して、映画版は櫻井翔演じる青江を狂言回し的キャラクターとして配置し、ストーリーの核を作り出しています。

キャラクター配置の改変はあれど、原作の物語に対して過度なアレンジを加えることはなく、小説本来のテーマ性も大事にされていました。

原作からカットされてしまった部分が、ミステリー性を若干損ねているのと、原作由来の突飛すぎる展開が少々気になりましたが、複雑な物語を上手くまとめていたと思います。 

 

 

以下ネタバレあり

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映画『君の名前で僕を呼んで』と原作小説『君の名前で僕を呼んで』の比較(ネタバレありの感想)

 

今回紹介する作品は

映画君の名前で僕を呼んでです。

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【あらすじ】

1983年、北イタリアのとある田舎町で過ごす17歳の青年・エリオ。

エリオの父は毎年夏なると、若い研究者をインターンとして招き、数週間家に住まわせていた。その年の夏その地に訪れたのは、アメリカから来た24歳の大学院生・オリヴァー。エリオはオリヴァーの印象を“自信家”だと感じ、好意を抱いてはいなかったが、次第に彼の不思議な魅力に惹かれていき…

【原作】

原作はアンドレ・アシマン氏の同名小説『君の名前で僕を呼んで』です。

君の名前で僕を呼んで (マグノリアブックス)

君の名前で僕を呼んで (マグノリアブックス)

 

原作者のアンドレ・アシマン氏は、エジプト生まれのユダヤ人小説家で、現在ニューヨーク市立大学大学院センターで、比較文学を教えている方です。

幼い頃、エジプトとイスラエル間で起きた政治的衝突の影響で、家族とともにエジプトを追われイタリアに移り住んだ経験があり、その時の経験を書いた自伝『Out of Egypt』で高い評価を得ました。本作を含めて、複数の作品を発表していますが、日本で翻訳された作品は今作が初めてです。

本作を観ると分かる通り、アシマン氏は自分のルーツであるユダヤというファクターを作品に取り入れており、作品世界を語るうえでの重要な要素として上手に落とし込んでいます。

 本書はエリオの一人称で物語が進み、彼の心情描写が細やかに描かれているので映画の内容を補完したい方にとてもおススメです。

作者は、今回の映画ににゲイのカップル役で登場しているのですが、本人はゲイではないそうです。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは、『ミラノ、愛に生きる』や『胸騒ぎのシチリア』などを手掛けたルカ・グァダニーノ監督です。

胸騒ぎのシチリア [Blu-ray]

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グァダニーノ監督は、本作と『ミラノ、愛に生きる』として『胸騒ぎのシチリア』を私的に“欲望”の三部作と呼んでいるそうです。その言葉通り、さまざま欲望を抱えたキャラクターたちの人間模様と、その欲望が成就する瞬間のカタルシス、そしてその顛末を丁寧に描くことに定評のある監督です。その手腕を買われ、次回作ではダリオ・アルジェント監督のサスペリア』のリメイクを手掛けることが決まっています。

本作で脚色を務めたのは『モーリス』や『日の名残り』で監督を務めた、ジェームズ・アイヴォリー氏です。アイヴォリーが自分の監督作以外で脚本を担当するのは初めてだったそうなのですが、その卓越したアダプテーション力で、アカデミー賞の最優秀脚色賞を受賞しています。(ただアイヴォリー氏は、本作で主演二人の下半身の露出がない事に不満も持っているそうです。)

本作で主人公のエリオを演じたのは、新鋭のティモシー・シャラメです。『インター・ステラー』で主人公の息子役を演じるなど、若くして高い演技力を見せてきたシャラメ君ですが、意外にも本作が初めての主演作だったそうです。高学歴でピアノまで見事に演奏できるこの才人は、初主演ながら実に堂に入った演技力で、青年の繊細な恋心を表現していました。

エリオが恋心を寄せる大学院生・オリヴァーを演じたのは『ローン・レンジャー』や『コードネームU.N.C.L.E』などのアーミー・ハマー。爽やかさと色気を兼ね備えた文句なしの男前でありながら、その演技は実に細やかで、一瞬の表情で感情をしっかりと表現していました。

 

私見

94点/100点満点中

 今作は原作の空気感をとても大事にしながら、小説の世界を忠実に映像化してています。ただ原作の物語をトレースするだけでなく、映像でしか伝えられない描写も巧みに加えられていて、とてもよくできていました。

原作からの省略も実によくできていて、小説版よりも胸にこみあげる切なさが増しています。一夏の恋を経て青年が大人になっていく物語としてまとめ上げた脚色力は、間違いなくアカデミー賞に値するものだと思います。

劇中で流れるスフィアン・スティーブンスの『Mistery of Love』も、歌詞とメロディーが本作のロマンティックで切ない物語に見事にマッチしていました。

静かながらも確かに変わっていく、エリオとオリヴァーの関係。そして主人公の心の揺れ動き。何気ないシーンの美しさは、実に映画的魅力にあふれており、後世まで語られる映画になるのではないかと思わせるほどでした。

 

以下ネタバレあり

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映画『レッド・スパロー』と原作小説「レッド・スパロー」の比較(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は、

映画レッド・スパローです。

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【あらすじ】

ボリショイバレエ団のトップダンサー・ドミニカは、公演中の事故で大怪我を負い、ダンサー生命を絶たれてしまう。体の弱い母の介護で苦しい生活を送るドミニカの前に、ロシア情報庁に務める叔父のワーニャが現れ、ある作戦に協力するよう申し出る。その作戦とは、同国の大富豪ウスチノフと2人きりになり、彼の携帯をすり替えるというものだった。ウスチノフを誘惑し、2人きりにしたドミニカだったが、ロシアの特殊工作局の殺し屋が彼女の前でウスチノフを殺害してしまう。国家機密を抱えたドミニカは、自分の身と母を守るために、叔父に協力せざるをおえなくなる。叔父の名によりスパイ養成学校に入れられたドミニカであったが、その学校はハニートラップ要員を養成する〈スパロー・スクール〉と呼ばれる場所であった…

 

【原作】

原作はジェイソン・マシューズの同名小説レッド・スパローです。  

レッド・スパロー(上)

レッド・スパロー(上)

 

 原作者のジェイソン・マシューズ氏は、元々CIAの捜査官だった方で、33年ものキャリアを積んだエリート局員だったそうです。

本作は作者の実際の経験や知見に基づいて物語が構成されているため、作中に登場する国家間の諜報戦は極めてリアルに描かれています。

登場するキャラクターはほぼほぼフィクションの人物ですが、劇中で行われる作戦や、スパイ活動は現実に行われるものを基にしています。実際、ロシアにはハニートラップ要員を育成するスパイの養成項目も本当にあっそうです。

 “ブラシ接触”や“カナリア・トラップ”といった聞き馴染みのない専門用語も多々出てくるので、リアル志向のスパイ小説としてとても面白いです。

作中に登場するFBIがやたら無能集団っぽく描かれていたり、プーチン大統領がかなりの悪漢として描かれていたりと、原作者の元CIAとしてのプライドやイデオロギーが見え隠れするのも面白いポイントです。

本作はドミニカの活躍を描いた3部作の第1作目にあたります。この作品の後に2作目の『Palace of Treason』3作目の『The Kremlin's Candidate』と続くので、今回の映画のヒット次第では、続編が制作されるかもしれません。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『コンスタンティン』や『アイ・アム・レジェンド』を手掛けたフランシス・ローレンス監督です。 

ハンガー・ゲーム2 [DVD]

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 ローレンス監督は『ハンガー・ゲーム2』から最終作の『ハンガー・ゲーム FINA レボリューション』までの3作に渡ってジェニファー・ローレンスとタッグを組んできた経験があるので、互いのことを知り尽くしたコンビです。ジェニファーがこの過激な役を演じられたのも、監督との信頼関係があったと言えるでしょう。ローレンス監督の作品の多くに共通するのが“孤立した中でも戦い続ける主人公”というテーマですが、本作もその監督の得意とする資質が存分に出ています。ローレンス監督の起用に合わせて、本作は撮影や編集、音楽などスタッフの殆どが『ハンガー・ゲーム』のチームでまとめられています。

脚本を担当したのは『レボリューショナリー・ロード』や『ローン・レンジャー』などを手掛けたジャスティン・ヘイスです。ヒューマンドラマから、サスペンス、アクションまで幅広く手掛けてきた敏腕脚本家が、長編小説を巧みな脚色でまとめ上げていました。

前述のとおり主演を務めたのは、ジェニファー・ローレンスです。アメリカ人女性がロシアの女スパイを演じるというかなりトリッキーなキャスティングでしたが、彼女のしっかりした役作りや体づくりによって、ほとんど違和感なく受け入れることができました。(ロシア人が英語で会話する違和感には目を伏せた上で)かなり大胆なシーンも多い役どころでしたが、出し惜しみなく演じていて、ドミニカ役は彼女しかいないと思えるほどでした。

 

私見

78点/100点満点中

長編小説の要素をとても上手く取捨選択しており、物語の再構成が良く出来ていて感心しました。削られた箇所は多々あれど、物語のテーマ自体は原作をきちんと踏襲していました。

原作からの大きく変えたラストの展開にもとても好感が持て、映画作品としての満足度はとても高かったです。

原作エピソードからのの省略は、基本的には上手く出来ているのですが、ある一点、省略による弊害が出ている気がしました。

 

 

 

 

以下ネタバレあり 

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映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』と原作コミック『ヴァレリアンとローレリーヌ』の比較(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は

映画ヴァレリアン 千の惑星の救世主です。 

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【あらすじ】

西暦2740年。人類はさまざまな宇宙人と接触し、異星人たちと共生していくため、宇宙ステーションを拡張させ続けていた。拡大をし続ける宇宙ステーションは、いつしかあらゆる種族の者たちが共存する千の惑星の都市として、銀河にその名を知られていた。

連邦捜査官のヴァレリアンとローレリーヌは、宇宙の平和を維持するための任務に就き、あらゆるミッションをこなしていた。惑星キリアンの闇マーケットから“変換器”と呼ばれる生物を奪取した2人は、司令官に変換器を届けにいくが、宇宙ステーションでは、ある一角が放射線によって汚染されているという別の問題が発生していた。

司令官の護衛として会議に赴いた2人だったが、何者かの襲撃に遭い、司令官を連れ去られてしまう…

【原作】

原作は、ピエール・クリスタン作、ジャン=クロード・メジエール画のフランス産コミック『Valérian et Laureline』(直訳『ヴァレリアンとローレリーヌ』)です。

ヴァレリアン (ShoPro Books)

ヴァレリアン (ShoPro Books)

 

この度の映画公開に合わせ、映画と同名の『ヴァレリアン 』というタイトルで、翻訳版の単行本がリリースされています。

本作は、1967年に『ピロット』というコミック誌に第1作目が掲載され、昨年2017年でちょうど50周年を迎えたフランスでは誰もが知る作品です。(作品自体は2010年に全20巻で完結)

『ヴァレリアン 』のようにフランス語圏で製作されたコミック誌は、俗に“バンド・デシネ(BD)”と呼ばれ、『タンタンの冒険』や『スマーフ』などの古典作品もこれに当たります。

本コミックの世界観は様々なSF作品に影響を与え、あの『スター・ウォーズ』にも影響を及ぼしたのではないかと言われています。(スター・ウォーズの製作陣から言質が取れているわけではないですが、コミックとの類似点があまりにも多いそう。)

今回の映画版は、1975年に発表された『影の大使』というエピソードをベースにしながら、『千の惑星の帝国』や『The City of Shifting Waters』などといった他エピソードの細かな要素も交え、一本の映画として完成させています。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは、『レオン』『LUCY ルーシー』などを手掛けたリュック・ベッソン監督です。

実はリュック・ベッソン監督とコミック『ヴァレリアン』には深い縁があります。子供の頃から『ヴァレリアン 』のファンだったというベッソンは、1997年に監督を務めた『フィフスエレメント』で、コミックの作画を担当したジャン=クロード・メジェールにデザインを依頼し、共に仕事をした経験があるのです。(ちなみに『フィフス・エレメント』の劇中には、コミックでヴァレリアンが乗車していた空飛ぶタクシーが登場しています。)その当時、メジェールをデザイナーに起用した理由を「これまでのハリウッド映画は、メジェールのアイデアを盗用してきたが、今回は彼に対してきちんと対価を払いたい」ベッソン監督は述べていました。今作はメジェールに対しての本当の意味での恩返しとも言えます。

 主人公ヴァレリアンを案じたのは『クロニクル』や『アメイジングスパイダーマン』などに出演していたデイン・デハーン。原作の雄々しいイメージのヴァレリアンと比べるとやや優男感が強い感じもしましたが、やはりポスト・ディカプリオと呼ばれる男前だけあって、キザでロマンチストな雰囲気はしっかりと出ていました。

  今作で、一番際立っていたのがローレリーヌ役のカーラ・デルヴィーニュです。もともとモデル出身なので女優業は本職ではないのですが、彼女の佇まいはまさにローレリーヌそのもので、キュートでパワフルなヒロインを好演していました。

 

 私見

80点/100点満点中

 時空や銀河を股にかけて展開される壮大な原作コミックを、宇宙空間を舞台にしたスペースオペラとしてシンプルにまとめ、難民問題などの現代的アプローチも加えており、とても良い改変が施されていました。

バンド・デシネの特徴でもあるセンス・オブ・ワンダーな画も、しっかり映像化されていて何も考えずに世界観に浸っているだけでも楽しい映画になっていました。

特にオープニングシーンは、他者や異文化の排除が加速している現代社会において、人類の理想的な進歩を見せてくれているようで、一気に心をつかまれました。

ストーリー進行にいくつか難点はあれど、見ている間全く飽きずに楽しめる作品なので、明るく陽気な映画を観たい人にお勧めです。

 

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

【原作との比較】

原作コミックと映画版では、基本的な設定に違いがあります。

原作コミックでは、物語の舞台となっているのが28世紀の地球です。1986年起きた核爆発によって人類は衰退の一途をたどっていたのですが、研究に研究を重ね、2300年代、遂に時空移動装置を発明します。その装置を使うことによって、人類はさまざまなな時空や銀河間を行き来できる様になったのですが、それに伴い時空や銀河を股にかけての犯罪が増加したため、そのような犯罪者を取り締まる“時空警察”が設けられました。ヴァレリアンもその捜査官の一人です。彼がXB27,XB982という宇宙船を使って時空を移動し、相棒のローレリーヌと共に幾多の事件を解決していくというのが原作の大きなあらすじです。映画版では、銀河間の移動は描かれているものの、時空間の移動は描かれていませんでした。(原作では、元々ローレリーヌは11世紀の地球で暮らしていたという設定)

地球には“ギャラクシティ”という地球銀河帝国の首都が設置されており、そこが時空警察の活動の要所となっているのですが、今回の映画版では登場していません。

映画版の主要な舞台となっている“アルファ宇宙ステーション”は、コミックでは“セントラルポイント”と呼ばれており、銀河間の交通の要衝という位置づけです。

今回の映画版では、オープニングシーンでアルファ宇宙ステーションの成り立ちをじっくりと描いており、宇宙ステーションがモザイク社会をどのように形成したのかを分かりやすく見せています。

そのあとの、惑星キリアンでの“変換機”奪取シーンで、ヴァレリアンたちの捜査官としての活躍を描いており、世界観を眺めているだけでも楽しい映画オリジナルのシーンとなっていました。 

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上にも述べた通り今作は、原作コミックの『影の大使』というエピソードをベースに物語を構成しています。

『影の大使』は、セントラルポイントで行われる安全保障会議にヴァレリアンとローレリーヌが向かうところから物語が始まります。その会議場で地球代表の大使(映画版では司令官)が、何者かにさらわれ、それを追ったヴァレリアンも行方をくらましたために、ローレリーヌが2人の捜索に向かうというのが大体のあらすじです。

基本的には映画版でも原作エピソード通りに物語が進行するのですが、地球代表の大使の目論見や、大使を誘拐した者たちの目的などが異なっています

また、原作においてはローレリーヌがヴァレリアンを救出に向かう形で物語が進むのですが、映画版では逆にヴァレリアンがローレリーヌを助けに向かう展開も用意されており、相互的に助け合うように描かれていました。

 

【原作からの改良点】

 原作では、行方をくらました大使とヴァレリアンを追って、ローレリーヌが2人の捜索を行うというのが話の主軸となっています。よって、ローレリーヌが主人公のエピソードといっても過言ではないのですが、今回の映画版では、ヴァレリアンが連れ去られたローレリーヌを救出に向かう展開が加わっており、彼の男としての成長も描かれています。

原作では、ローレリーヌがグラムポッドと手を組んでバクラン人に化け、ヴァレリアンの行方を聞き出す展開だったところが、映画版ではヴァレリアンが貪欲なブーラン・バーソルからローレリーヌを救い出す展開に切り替わっています。(原作では男娼だったグラムポッドも、バブルという女性ダンサーのグラムポッドに改変されています。)

この展開のおかげで、ヴァレリアンの男らしい側面がしっかりと描かれており、ローレリーヌが救助しに来てくれた際に彼が言った「僕だってそうする」というまぁまぁ最低な言葉も、何とか回収されていて安心しました。

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ローレリーヌはとてもたくましく気の強い女性なのですが、原作ではその強気な性格ゆえにコンバーター(変換機)をモノとして扱っている節がありました。コミック中で、彼女はヴァレリアンの行方を追うために、変換機を使って様々な物質を複製させ、異星人たちと取引をしています。あまりに複製能力を酷使するために、中盤から変換機もローレリーヌに反抗するのですが、彼女はコンバーターに平手打ちまで食らわせて言うことを聞かせます。

映画版のローレリーヌは、コミック版と比べるとかなり人道的になっており、取引のために変換機を使う描写もほとんどありません。これによって彼女の博愛主義の精神が引き立っていて良かったです。 

 

【不満点】

映画序盤のシーン。惑星キリアンに変換機の奪取に向かったヴァレリアンとローレリーヌは、ミッション中にヘマをしてしまい、捜査官の仲間にかなり甚大な被害を与えます。はっきりと描写はされていないものの、確実に犠牲になった捜査員がいるはずなのですが、彼らは態度はかなりドライで、仲間の死を悼んだりしていません。そのシーンを見たときはでは「人の死が当たり前の世界なのかな」と思ったのですが、物語中盤でバブルが死ぬ場面になると、ヴァレリアンとローレリーヌは凄く感傷的な表情を見せています。それまでの劇中で彼らの人としての成長を十分に見せたわけでもないのに、この変わり様はかなり戸惑ってしまいました。 

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本作は、誘拐された司令官を救出に向かうというのが大筋のストーリーラインとなっているのですが、その道中でさまざまな異星人たちとの異文化交流が描かれるため、かなり寄り道の多い作品となっています。その寄り道自体は、原作と同じなので別に文句はないのですが、司令官の救出に向かうヴァレリアンとローレリーヌの物語の合間に、指令室にいる国防長官とネザ軍曹の様子がいちいち描かれているのが、物語全体のテンションを損なっているように感じました。彼らは物語の進行にあまり寄与しておらず、クライマックスでKトロンの襲撃を受けて、ようやく物語に絡む程度です。ただでさえ本筋から脇道に逸れがちな物語なのに、彼らの映像が挟まれることによって、より物語の進行スピードが遅くなっているように感じました。

 

【異星人との共存共栄】

今回の映画では、アルファ宇宙ステーションがどのようにして拡張されていったのかがオープニングシーンで描かれています。

人類が異星人たちと友好描く様子が、デビッド・ボウイの「Space Oddity」にのせて映し出されるのですが、このオープニングシーンで心を鷲掴みにされました。

未来の人類の姿を退廃的に描いたディストピア作品が多い昨今、異なる文化の人々と手を結び発展を遂げていく姿は、人類の理想的な進化を示しているようで、何とも希望にあふれた素晴らしいシークエンスでした。 

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【失われた故郷】

今作で最も重要なカギを握るのが、パール人という種族です。

原作ではパール人という名称ではなく、名前を持たない一惑星の種族です。彼らはセントラルポイントの礎を築いた、高度な知性とパワーを持つ種族だったのですが、今は第一線から身を引き、セントラルポイントの安寧を遠くから見守る存在となっています。原作コミック内での彼らの目的は、安全保障会議において連邦制を導入し覇権を握ろうとする地球の大使を止めることで、そのために大使を誘拐したことがラストで明らかになります。

対して今回の映画版では、パール人を戦争に巻き込ままれ故郷を失った難民として描いており、原作に対しての現代的なアプローチがなされています。

彼らの目的は、変換機と 真珠(パール)を手に入れ、故郷をよみがえらせることでした。パール人が失われたふるさとを復興させる様は、故郷を失った難民へのエールのようにも感じられました。

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パール人は、故郷を滅ぼした原因であるフィリット司令官に赦しを与えます

その姿は、コミックの原作者であるクリスタンとメジエールの精神性をしっかりを引き継いでいるように感じました。

クリスタンとメジエールは、幼少期ににフランスで親交を深めた幼馴染ですが、彼らが出会った1940年代前半のフランスは、ナチス・ドイツによって占領されおり強い弾圧を受けていました。メジエールの友達だった女の子は、ユダヤ人だったためにドイツ軍に連行され、二度と戻ってくることはなかったそうです。

そんな悲しい歴史を見てきた2人ですが、その経験を憎しみに変えるのではなくコミックとして物語に昇華させました

パール人たちが戦争を引き起こした人物に赦しを与えるのは、そんな原作者たちのヒューマニズムが映画にもしっかりと継承されているようでとても感動しました。

 

【愛と責任】

ヴァレリアンは劇中で幾度となくローレリーヌに求婚を申し出るのですが、彼女はヴァレリアンに対して不信感も抱いています。

ヴァレリアンは、幾多のミッションをこなしてきた敏腕のエージェントではありますが、すべて上からの指示に従っているだけで、自らの意志で行動し、その責任を負う覚悟をもっていない事をローレリーヌは悟っていたのです。

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パール人と出会ったヴァレリアンは、彼らが故郷をよみがえらせるために真珠(パール)と変換機を必要としていることを知りますが、上からの命令に背くことをためらい、パール人に変換機を返すことを渋ります。しかし、ローレリーヌに説得された彼は、決意を固め、変換機をパール人に返します。

その行動は彼が自らの意志で命令に反し、すべての責任を背負った成長の証です。

責任を負うことの意味を知ったヴァレリアンは、ローレリーヌに心からの求婚をします。ようやく結ばれた二人は、約束していたハネムーン先のビーチへと向かうのでした。