雁丸(がんまる)の原作代読映画レビュー

原作読んで映画レビューするよ!

映画『メアリと魔女の花』と原作小説『小さな魔法のほうき』(ネタバレあり)

 今回紹介する作品は

映画メアリと魔女の花です。

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【あらすじ】

大叔母の住む田舎町・赤い館村に引っ越してきたメアリは、遊びに出かけた森の中でエメラルド色の目をした黒猫と出会う。 猫の後を追いかけていくと紫色に光る不思議な花を見つけ、メアリはその花を摘み取ってしまう。その花の名は“夜間飛行”。7年に1度しか咲かない花で、かつては魔女までが探し求めた花だという。明くる日、森の中で古びた箒を見つけたメアリは、誤って夜間飛行の蜜を箒につけてしまう。すると箒は激しく動き出し、メアリを乗せて空高くに飛び立つのであった…。

 

【原作】

原作はメアリー・スチュアートの児童小説『小さな魔法のほうき(原題・The little broomstick)』です。

小さな魔法のほうき (fukkan.com)

小さな魔法のほうき (fukkan.com)

 

 映画公開に合わせて『新訳 メアリと魔女の花』という、文庫本も出版されています。映画のタイトルがつけられた本ですが、中身は『小さな魔法のほうき』と変わらず、映画版のノベライズというわけではないので、原作の内容を知りたい方はこちらを読んでも問題ありません。(ストーリーは一緒ですが『小さな魔法のほうき』の訳者の掛川恭子さんと、新訳版の翻訳者は違う人なので、小説の文体に若干の違いがあります)

挿絵のついた児童文庫版も出版されていますが、映画版のメアリの絵柄で原作どおりのストーリーが展開されるので、映画を見た子供が読むと少し混乱するかもしれません。特にドクター・デイやフラナガンのキャラクターデザインは原作通りに描かれていて、映画版のビジュアルとはまるで違うので違和感を感じるかも。

  本作は1971年に発表された児童文学で、原作者メアリー・スチュアートにとって初めての子供向け小説になります。たまに“ハリーポッターのパクリ”と揶揄されることがありますが、ハリーポッターより20年以上も前に書かれた魔法小説です。

原作の主人公・メアリーは自分のメアリー・スミスという平凡な名前にコンプレックスを抱いているのですが、これは同じ名前を持つ作者の投影かもしれません。

  原作中に出てくる魔法の呪文はマザー・グースの詩を元にしており(映画版には出ませんが)呪文の語感の良さも魅力の1つです。

 

【スタッフ・キャスト】

本作を手掛けたのはスタジオポノック米林宏昌監督です。

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 米林監督作は『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』に続く3作目になります。3作とも原作ありの作品なので、個人的にはそろそろオリジナル脚本で監督の自力が見たいところです。

メアリと魔女の花』は、スタジオジブリ制作部が解体になり、本作のプロデューサーである西村義明さんが立ち上げた“スタジオポノック”(ポノックとはクロアチア語で「深夜0時」のことを言い、新たな始まりという意味が込められている)の第一回長編映画です。米林監督曰く本作は「ジブリの血を引いた作品を作ろう」という意気込みで制作された作品だそうです。

 その言葉通り、本作にはかつてジブリのスタッフとして活躍していた方々が多く関わっています。

千と千尋の神隠し』の原画や『ハウルの動く城』の作画を務められた稲村武志さんが本作の作画監督を務めていたり、『パンダコパンダ』時代から宮崎・高畑コンビを支えてきた男鹿和雄さんが背景を務めていたりと、ベテランたちが脇を固めています。

このようなジブリの意思を引き継ぐスタッフによって作られたビジュアルはアニメーション的快感にあふれています。

主人公のメアリの声を担当したのは杉咲花さん。少々幼さの残る声が人としての成長途中のメアリにぴったり合っており、とても良かったです。

 

【私的評価】

72点/100点満点中

原作からの改変点が多々あった映画ですが、小説の根幹にあったテーマはしっかり抑えており、原作になかった新たな視点を持ち込むことで物語に深みを与えていました。

 美術も大変素晴らしく、カラフルな魔法界の景色は見ているだけでも楽しかったです。

ただ、物語の構成に気になる点もあり、やや冗長に感じられるところもありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 以下ネタバレあり

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映画『忍びの国』と原作小説『忍びの国』(ネタバレあり)

 今回紹介する作品は、

映画忍びの国です。

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【あらすじ】

時は戦国。織田信長が天下統一のために次々と諸国を支配する中、唯一攻め込むのをためらった国があった。それは、“虎狼の族”と恐れられる忍び達が棲む国・伊賀である。信長の息子・信雄は伊賀の隣国伊勢を支配下におき、伊賀への侵攻も時間の問題となっていた。

そんな中、伊賀随一の忍者・無門は、妻の尻に敷かれ、地侍に雇われながら細々と暮らしていた。ある日、無門は地侍同士の小競り合いに駆り出され、下山次郎兵衛を決闘の末に殺してしまう。次郎兵衛の兄・平兵衛は伊賀の忍者たちに対し怒り心頭に発し、信雄に伊賀への侵攻を直訴するのであった…

 

【原作】

原作は和田竜さんの同名小説『忍びの国』です。

忍びの国 (新潮文庫)

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和田竜さんの著書の映画化は『のぼうの城』以来2作目になります。

本作は実際に起こった合戦「天正伊賀の乱」をベースに描かれた史実小説です。

主人公の無門は架空の人物ですが、日置大膳や下山甲斐守(平兵衛)などは実在した人物で、実際の歴史の流れに沿って物語が組み立てられています。

天正伊賀の乱にまつわる文献はかなり少なく苦労したそうですが、当時の書物を参考にしながら史実から逸脱しすぎないように物語を上手に膨らませています。(伊勢・伊賀の国の実態については『伊乱記』、忍者の実態については『正忍記』からの引用が多く見られます)

ちなみに、和田竜さんは脚本家としても活動しており、本作の脚本も務めています。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『アヒルと鴨のコインロッカー』や『殿、利息でござる』などを手掛けた中村義洋監督です。

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 中村監督と大野さんのタッグは『映画 怪物くん』以来2度目となります。

 『怪物くん』の時は元々あったドラマ版の映画化として監督を任されたのに対し、本作は原作に惚れ込んだ中村監督が自ら出版社に直談判し映画化権を獲得したそうで熱量の高さが伺えます。

主人公・無門を演じたのは人気アイドルグループ・嵐のリーダー大野智さん。

元々ダンスが上手いという印象は持っていましたが、ここまでアクションが映える俊敏な動きが出来るとは思っておらず、度肝を抜かれました。 普段はゆるーい感じなのに、いざという時はずば抜けた能力を発揮するキャラクター性が大野さんとぴったり合っており、これ以上にない適役でした。

 また、本作の衣装デザインには『座頭市』や『清須会議』などと手掛けた黒澤和子さん(黒澤明監督の長女)が携わっており、映画の華やかさを引き立てています。

 

 【私的評価】

73点/100点満点中

 中村監督が自ら出版社に掛け合い映画化権を獲得しただけあって、原作への経緯がしっかり込められており、誠実に作られている印象を受けました。

アクションシーンではパルクールなどを取り入れたアクロバティックな動きを多用し、忍者が戦うという設定にしっかりと説得力を持たせていました。

ただ、原作にあった痛快なシーンが一か所削られており、そこが残念でした。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレあり

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映画『ダブルミンツ』と原作漫画『ダブルミンツ』(ネタバレあり)

 

今回紹介する作品は

映画ダブルミンツです。

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【あらすじ】

 ある夜、壱河光夫(ミツオ)のもとに「すぐにこっちに来い、女を殺した」という電話がかかった。声の主は高校時代にミツオをいじめていた同姓同名のクラスメイト市川光央(みつお)だった。みつおは酔った勢いで女を殴り殺してしまい、死体をトランクに詰めていた。二人は山中に死体を埋めに行き共犯関係となり、かつての主従関係が特殊な形で芽生えていく…

 

 

【原作】

原作は中村明日美子先生の同名漫画『ダブルミンツ』です。

ダブルミンツ (EDGE COMIX)

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中村明日美子先生の映画化作品は昨年公開されたアニメ映画『同級生』以来2作目になります。

本作は雑誌「メロメロ」で2007年から2008年まで連載されていた全5話のボーイズラブ漫画です。(単行本には後日談を描いた「雨」という短編も加えられています)

  2010年の「このBLがやばい!」において第2位に選ばれている世評も高い作品なのですが、バイオレンス性が高いため、見る人を選ぶ部分があるかもしれません。

中村先生は「女の死体を積んで深夜のドライブに出る」という冒頭部分のアイデアから話を膨らませていったそうで、全編ダークなピカレスクロマンに仕上がっています。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『下衆の愛』や『グレイトフルデッド』などを手掛けた内田英治監督です。

下衆の愛DVD

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 内田監督の映画の主人公は、業が深くどうしようもない奴ばかりなのですが、そのどうしようもなさの中に人間味を感じさせるのが上手い監督です。本作の主人公もどうしようもない奴らなので監督の資質にぴったりでした。

壱河光夫(ミツオ)を演じたのは渕上泰史さん。渕上さんの演じるミツオは、原作のミツオよりも冷淡な雰囲気で、ミステリアスさが強まっていました。感情を露わにし過ぎない演技で、漫画のキャラクターを映画の世界に上手に落とし込んでいました。

 市川光央(みつお)を演じたのは男性ユニットBOYS AND MENのメンバー田中俊介さん。田中さんは原作のみつおを見た目的にも内面的にも体現していて、見ていて痛々しいほど体を張った演技をしてます。自分は本作で初めて田中さんを知ったのですが、アイドルらしい輝きもありながら影の部分も持ち合わせている稀有な存在だと思うので、これからどんどん役者として活躍していって欲しいです。

 作中で流れる劇伴には、細井唯さんが演奏するチェロをベースにした音楽が使われており、シリアスな雰囲気を一層引き締めてくれていました。

 

 

 【私的評価】

85点/100点満点中

 原作の空気感を崩さずしっかり映像化しており、ストーリーも大きな改変を加えていないためかなり誠実に作っている印象を受けました。

原作同様ボーイズラブの要素もしっかり取り入れていますが、コミック版と比べるとクライムサスペンスの風合いを強く出したアプローチがされており、人間ドラマとしても楽しめるので、BLに抵抗がないのであれば是非見てほしいです。(バイオレンスが苦手な人は避けたほうがいいかも…)

 

 

 

 

 

 

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映画『怪物はささやく』と原作小説『怪物はささやく』(ネタバレあり)

 今回紹介する作品は

映画怪物はささやくです。

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【あらすじ】

難病を抱える母とイギリスの片田舎で暮らす少年・コナー。日に日に母親の病状が悪くなる中、ある日の真夜中12時7分、丘の上の巨木が怪物へと姿を変えコナーの前に現れた。怪物はコナーに対し「これからお前に3つの物語を聞かせる。その後お前が4つ目の話をするのだ」と迫った。コナーは怪物の話を聞き入れようとしなかったが、怪物は1つ目の物語を話し始めるのだった…

【原作】

原作はシヴォーン・ダウド原案、パトリック・ネス著の同名小説『怪物はささやく』です。

怪物はささやく

怪物はささやく

 

 本作は2012年に児童文学に対して贈られる権威ある賞「カーネギー賞」を受賞した作品です。

原案者のシヴォーン・ダウドは2007年に癌により夭逝した作家で、死後に刊行された『ボグ・チャイルド』という作品でもカーネギー賞を受賞しています。

著者であるパトリック・ネスは、ヤングアダルト向けの小説を多く発表している作家で、彼も『人という怪物』という作品でカーネギー賞の受賞経験があります。

本作はダウドが生前に残していたメモを元にネスがストーリーを膨らませ、物語を紡いでいった作品です。この2人には面識はなかったそうですが、ネスはダウドに精一杯の敬意を込めて作品を完成させています。そのため、本作の主人公の母のキャラクターはどこかダウドが投影されているようでもあります。

原作の作中に挿入される挿絵もとても特徴的です。モノクロで描かれた印象的なグラフィックは、映画版にも生かされています。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは、J.A.バヨナ監督です。

永遠のこどもたち [DVD]

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 バヨナ監督は『永遠のこどもたち』や『インポッシブル』など、母性を描いた物語を得意とする監督です。本作でも母性を物語る描写がありますが、過去作とは違い息子目線でそれが描かれています。

主人公のコナーを演じたのは1000人以上のオーディションから選ばれたルイス・マクドゥーガルくん。ルイス君は映画『PAN』で主人公の友人・ニブスを演じていましたが、主演を務めるのは本作が初となります。大人と子供の狭間で揺れ動く少年の機微を素晴らしい演技で見せてくれました。

怪物役は名優リーアム・ニーソンが務めており、自身初となるモーションキャプチャによる演技で、恐ろしさと優しさを兼ね備えた怪物を好演していました。

難病に犯される母を演じたのは、こちらも名女優フェリシティ・ジョーンズ、徐々に衰弱していく母を見事に体現し、主人公の不安に観客も同調できる名演でした。

 

【私的評価】

88点/100点満点中

原作のテーマを的確に抽出し、映画版オリジナルの要素を加えることによってそのテーマをより深淵なものにしていました。

原作の挿絵として描かれているグラフィックを忠実に映像化しており、ビジュアル面においても高い満足度が得られます。

ただ、原作に登場したあるキャラクターが、映画版では登場せずある感動的な展開が丸々なくなっていたところが少々残念でした。

 

 

 

 

 

 

 

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映画『夜に生きる』と原作小説『夜に生きる』(ネタバレあり)

今回紹介する作品は

映画夜に生きるです

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【あらすじ】

 禁酒法時代のアメリカ・ボストン。アイルランド系移民の血を引くジョー警視正の息子であるにもかかわらず強盗稼業に手を染め、“無法者”として日々を生きていた。そんなジョーは、エマ・グルードという女と恋に落ちるが、彼女はアイルランド系ギャングのボス・アルバート・ホワイトの情婦であった。エマとの関係がホワイトに知られ、追い詰められたジョーは図らずもギャングの世界に足を踏み入れてしまうことになる…

 

【原作】

原作はミステリー作家デニス・ルヘインの同名小説『夜に生きる』です。

夜に生きる 〔ハヤカワ・ミステリ1869〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

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デニス・ルヘインといえば『ミスティック・リバー』や『シャッター・アイランド』など、発表した作品が数多く映画化されている作家です。

本作はアメリカ探偵作家クラブが主催する“エドガー賞”を受賞し、ベストセラーとなった作品です。

 小説『夜に生きる』は、アイランド系の一家・コグリン家を描いた三部作の第二部目にあたります。本作の前日譚でありジョーの兄・ダニーが主人公の『運命の日』と、本作のその後を描いた『過ぎ去りし世界』が前後にありますが、本作単体で読み始めても楽しめるので特に問題ありません。

作者のルヘインは、映画化にあたり原作提供だけでなく製作総指揮も務めています。

 

【スタッフ・キャスト】

 本作はベン・アフレックが監督・主演及び製作・脚本を務めています。

ゴーン・ベイビー・ゴーン [Blu-ray]

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ベン・アフレックと原作者のデニス・ルヘインは、アフレックの初監督作品『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(原作タイトル「愛しきものはすべて去りゆく」)以来、2度目のタッグとなります。

主演と監督を同時に務め、素晴らしい作品を発表し続けるアフレックは“ポストイーストウッド”と称されるとこもありますが、本作を見ると確かに過言でないように思います。(関係ないですが、本作にはクリント・イーストウッドの息子スコット・イーストウッドも出演しています。)

本作は製作総指揮レオナルド・ディカプリオが映画化の権利を獲得し、企画をアフレックのもとに持って行ったことがきっかけで作られた作品です。この題材をアフレックに任せたディカプリオの慧眼は本当に素晴らしいと思います。

本作の撮影監督は『アビエイター』や『ヒューゴの不思議な発明』でアカデミー賞を受賞しているロバート・リチャードソンで、劇中のカメラワークには目を引かれるところが多々あります。静と動のバランスが良く、心地よさすら感じさせる画に仕上がっていました。

 

 

【私的評価】

85点/100点満点中

「かっこいい」の一言に尽きるほど、ストーリーや演出が洗練されていて、 見ていて全く退屈しませんでした。

原作のテーマを大事にくみ取りながら、現代社会にも通じる映画版オリジナルの皮肉も込めておりスタイリッシュなだけでない魅力が詰まっていました。

原作からいくつかカットされているシーンがあり、できれば削いでほしくなかった箇所が無くなっていたのでそこが少々残念でした。

 

 

 

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映画『メッセージ』と原作小説『あなたの人生の物語』(ネタバレあり)

今回紹介する作品は

映画『メッセージ』です。

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【あらすじ】

ある日、突如として世界12か所に現れた浮遊物体。謎の球体飛行物体に世界中がパニックに陥る中、言語学者のルイーズは異星の生命体とのコンタクトを取るため国からの要請を受ける。未知の生命体“ヘプタポッド”の言語を理解するために、ヘプタポッドの印す謎の文字の解読に当たるルイーズであったが、彼らとコンタクトをとるうちに最愛の娘の姿が頭を過るようになっていく…

 

【原作】

 原作は、テッド・チャンの短編SF『あなたの人生の物語』(原題・Story of Your Life)です。

あなたの人生の物語

あなたの人生の物語

 

 本作は、アメリカSFファンタジー作家協会が主催する権威ある文学賞ネビュラ賞”や、その年に出版されたSF短編の中で最も優れた作品に贈られる“シオドア・スタージョン賞”など数多くの文学賞に輝いた傑作SF短編です。

物語は、未知のエイリアン“ヘプタポッド”とコンタクトをとるために試行錯誤をするルイーズと、彼女が今はいない娘に対して語り掛けるモノローグか交互に描かれストーリーが進んで行きます。

作者はフェルマーの原理に代表される変分原理に興味を持ったことからこの作品を手掛けたそうで、幾何学など数学への素養がかなり試されるので、文系人間の自分には知恵熱が出そうになるほど複雑でした。

 

【スタッフ・キャスト】

 本作のメガホンをとったのは『プリズナーズ』や『複製された男』『ボーダーライン』などを手掛けたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督です。

 ヴィルヌーヴ監督は、ミステリーやスリラーなどを得意としてきましたが、本作は監督にとって初めてのSF作品になります。

監督は10歳のころからSF作品を撮るのが夢だったそうで、次回作には『ブレードランナー2049』や『デューン砂の惑星』といった傑作SF小説の映像化が続々と控えています。

主人公・ルイーズを演じたのはエイミー・アダムスさん。芯の強さと実は脆い両面を持ちながら、未知への探求に挑む女性を見事に好演していました。エイリアンとの交流の中で世界への認識が変わっていく様を素晴らしい演技力で見せてくれました。

また、音楽を手掛けたヨハン・ヨハンソンさんのスコアも非常に良かったです。既聴感のない独特の音楽で観客の不安と好奇心を絶妙に煽る素晴らしい劇伴に仕上がっていました。

 

 

【私的評価】

98点/100点

複雑な原作を分かりやすく映像化しており、言語学や数学に疎い人でも理解できるストーリーに仕上げていました。

異星人の出現に混乱する人類の様子など、映画版オリジナルの要素も加わっており映画的な盛り上がりも用意されていました。

複雑なSF設定を通して、現実世界の愛の物語にアプローチしていくラストも見事で、SF映画の新たな金字塔といっても過言ではないでしょう。

 

 

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映画『無限の住人』と原作漫画『無限の住人』(ネタバレあり)

 今回紹介する作品は

無限の住人です。

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【あらすじ】

旗本の腰物同心であった万次は、民を苦しめる主と同心を殺したため賞金首となった。ある日、目の前で妹・町を賞金稼ぎに殺された万次は、怒り狂った勢いで100人の追手を斬り捨てた果てに死にかけてしまう。そこに謎の老婆・八尾比丘尼があらわれ、彼の体に「血仙蟲」という虫を埋め込み万次を不死の体に仕立て上げた。

それから50年が過ぎ、孤独に過ごす万次の前に浅野凜と名乗る少女があらわれる。凜は無天一流という流派の師範代だった父を、逸刀流の統主天津影久に殺された過去があり、万次に対して天津への仇討ちを手伝ってほしいと申しでる。凜に亡くなった妹の面影を重ねた万次は、凜の用心棒を引き受ける。

 

 

【原作】

原作は沙村広明さんの同名漫画『無限の住人』です。

 原作は全30巻(新装版は全15巻)で、月刊アフタヌーンに19年に渡り連載されていた漫画です。

本作は、世界中から支持を得ている漫画で、アメリカで“コミック界のアカデミー賞”と呼ばれるウィル・アイズナー漫画業界賞の最優秀国際作品賞を獲得したほどの作品です。

 個人的には19年の長期連載作品でありながら、設定のブレや変なテコ入れがなく、作者の描きたいものやテーマがしっかりしている土台のしっかりした漫画という印象を受けました。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『クローズZERO』や『殺し屋1』などの実写化作品を数多く手掛けてきた三池崇史監督です。

十三人の刺客 通常版 [DVD]

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 三池監督は上記のような実写化作品に加え、『13人の刺客』や『一命』などの時代劇も手掛けており、原作には五体がちょん切れる人体破壊描写もたっぷりなので、三池監督の資質のとてもあった題材だったと思います。

 

主人公・万次を演じたのは木村拓哉さん。木村さんは剣道経験者で「武士の一文」などで時代劇の主演経験もあるため、殺陣シーンなど画面に映える立ち回りがとても上手でした。隻眼という設定なので、距離感の取りずらいアクションシーンだったと思いますが見事にこなしていました。

 

私的評価】 

78点/100点満点中

 長編漫画2時間に収めたためストーリー展開にやや早急さを感じましたが、無限の命の意味という原作のテーマはしっかりと描かれいてよかったです。

映画版ならではの派手な大立ち回りもあり、非常に楽しめました。

 

 

 以下ネタバレあり

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