雁丸(がんまる)の原作代読映画レビュー

原作読んで映画レビューするよ!

映画『不能犯』と原作漫画『不能犯』(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は

映画不能犯です。 

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【あらすじ】

 女性刑事・多田は、ある日謎の変死事件の担当を任させる。その事件とは、喫茶店で被害者の男性が、黒いスーツを着た男に何かを囁かれた途端、錯乱状態に陥り、死亡したという不可解極まりない事件であった。多田は捜査を進めていき、「電話ボックスの男」と称される宇相吹という男を犯人として連行するが、その殺人の手口は絶対に立証できないものであった…

 

【原作】

原作は宮月新先生原作、神崎裕也先生作画の同名漫画『不能犯』です。

不能犯 コミック 1-3巻セット (ヤングジャンプコミックス)

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 漫画『不能犯』は、グランドジャンプにて連載中の青年漫画で、現在までに7巻が刊行されています。

原作は、不能犯・宇相吹と刑事・多田の追走劇が下地としてあるものの、基本的には一話完結型の物語です。何者かに憎しみを抱く人間たちが宇相吹に殺人の話を持ちかけ、殺したい相手共々不幸に陥っていく様が、多様な形で描かれています。印象としては現代版笑ゥせぇるすまんといった趣の作品です。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『貞子VS伽倻子』や『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズなどを手掛けてきた白石晃士監督です。

オカルト [DVD]

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 白石監督は、主にフェイクドキュメンタリー手法を用いた作品を得意としている方で、ホラー映画界の奇才と呼ばれています。

 白石監督作品の特徴は、エキセントリックなキャラクター造形でしょう。登場人物のリアリティよりもケレン味を重要視する作風で、その突飛なキャラクターによって予定調和的な展開をぶっ壊していく様がとても爽快です。

ちなみに本作には、白石晃士作品によく現れる異形の物体“霊体ミミズ”らしきものが登場します。

白石監督は『仮面ティーチャー』や『ピーチガール』のシナリオを手掛けた山岡潤平さんと共に共同脚本も務めています。

不能犯・宇相吹を演じたのは松坂桃李さん。ダークで掴み所のない主人公を見事に演じていて、漫画版の宇相吹が見せる不敵な笑みもしっかりと再現していました。殺す相手と視線を合わせ術中に掛けるシークエンスは、松坂さんの演技力と眼力だけで充分な気がして、CG加工はいらなかったのではないかと思えるほどでした。

女性刑事・多田を演じたのは沢尻エリカさん。沢尻さんはとても頑張って多田を演じているのですが、多田のキャラクター性が原作と比べるとかなり気の強い人物に改変されているので、原作にあった多田の純粋さのようなものがあまり感じられず、宇相吹の術中にかからないことに少し説得力が感じられませんでした(必ずしも沢尻さんのせいではないのですが…)

 

【私的評価】

68点/100点満点中

原作よりも多田と宇相吹の対立軸を明確にし、わかりやすく作っている部分には好感が持てました。松坂桃李さんの演技も原作からそのまま宇相吹を抜き出したような佇まいと表情で良かったです。

 1話完結型のエピソードからいくつかエピソードを抜粋し、映画版オリジナルのエピソードを含めて物語を構成しているのですが、その各エピソードが一本の映画として上手く絡み合っていないのが少し残念でした。

 

 

 

 以下ネタバレあり

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映画『殺人者の記憶法』と原作小説『殺人者の記憶法』(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は

映画殺人者の記憶法です。 

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【あらすじ】

閑静な田舎町、娘のウンヒと2人で穏やかに暮らすキム・ビョンス。ビョンスはかつて獣医師として働いていたが、その裏の顔は、存在価値がないと判断した人間を容赦なく殺す殺人鬼であった。しかし、現在彼はアルツハイマーを抱えており、新しい記憶が抜け落ちていく症状に陥っていた。

そんなある日、ビョンスは不注意から追突事故を起こしてしまう。追突相手の車を見ると荷台から血が滴っており、ビョンスはテジュと名乗る事故相手の男が人殺しであることを察知する。ビョンスはテジュの魔の手から娘を守ろうと画策するが…

 

【原作】

原作はキム・ヨンハさんの小説『殺人者の記憶法』です。 

殺人者の記憶法 (新しい韓国の文学)

殺人者の記憶法 (新しい韓国の文学)

 

 キム・ヨンハさんは、文学トンネ作家賞や黄順元文学賞、東仁文学賞、万海文学賞など、韓国の主要な文学賞はほぼ全て受賞している天才作家であり、韓国現代文学会の寵児です。

日本では『阿娘はなぜ』『光の帝国』などが、邦訳され出版されています。

キムさんは、10歳の時、オンドルと呼ばれる練炭を使った床下暖房によって練炭中毒になってしまい、それ以前の幼年期の記憶の大半を失った過去があるそうです。その経験がこの小説に活かされているのかは定かではありませんが、本作は記憶を失うことの恐ろしさがひしひしと伝わる作品になっています。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『鬘 かつら』や『サスペクト 哀しき容疑者』などを手掛けたウォン・シニョン監督です。

 ウォン・シニョン監督は、 主にサスペンス色の強い映画を得意としている方ですが、本作は『鬘 かつら』でも見せたホラー的演出や、『セブンデイズ』でも見せた親子愛の物語など、監督の今までの作品の良いとこどりをしたようなシーンが盛りだくさんで、どの部分を取ってみても高水準の映画に仕上がっています。

監督はアルツハイマーを患った人間を描くにあたって、直接医師からの指導を受けに行ったそうで、医者からのお墨付きをもらった映画ということもあり、劇中の認知症描写にはとても説得力があります。

主人公のビョンスを演じたのは、『シルミド/SILMIDO』『力道山』『オアシス』などに出演したソル・ギョングさん。ソルさんは、若き日のビョンスと年老いたビョンスを演じ分けるために、体重を増減させる肉体改造を行ったそうで、10kg以上ウェイトを絞ったそうです。彼の演じるビョンスは本当に狂気に満ちていて、その顔はまさに修羅といった様相でした。

若き殺人鬼テジュを演じたのは『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』や『無頼漢 乾いた罪』などの。キム・ナムギルさん。彼もソル・ギョングさんに触発され、小憎たらしい殺人鬼を演じるために14kgも体重を増やす肉体改造をしたそうです。そのおかげで不気味さが増し、テジュの掴み所のない恐ろしさをより際立てていました。

 

【私的評価】

90点/100点満点中

 本作は原作と同じくアルツハイマーの殺人者を主人公にした物語ですが、原作通りなのはその基本設定ぐらいで、ストーリー面はかなり大きな脚色が加えられています。しかしながら、その脚色が実に巧みで、ストーリーテリング力に感嘆させられました。

原作の淡々としたストーリーを、映画的ダイナミズムを盛り込んだストーリーに改変し、全く飽きさせない作りになっています。

登場する役者さんがいずれも素晴らしく、特に主人公を演じたソン・ギョルグさんは、記憶を失いつつある殺人鬼という突飛な設定にも関わらず、説得力のある演技を見せてくれました。

 

 

以下ネタバレあり

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映画『ルイの9番目の人生』と原作小説『ルイの九番目の命』(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は

映画ルイの9番目の人生です。

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【あらすじ】

ルイ・ドラックスは今までの人生で8回も命を落としかける事故に見舞われていた。そんな彼が崖から転落するという9度目の大事故にあい、病院に運ばれる。一度は死亡と判断されたルイであったが、突然息を吹き返し昏睡状態になってしまう。ルイの担当医であるパスカルは、彼の母親のナタリーに事情を聞き出そうとするが、彼女との間に不埒な関係が芽生えてしまい…

 

【原作】

原作はリズ・ジェンセンの小説『ルイの九番目の人生(原題:The Ninth Life of Louis Drax)』です。 

ルイの九番目の命 (ソフトバンク文庫)

ルイの九番目の命 (ソフトバンク文庫)

 

 リズ・ジェンセンはブラックユーモアの含まれたコメディやサスペンス作品を得意にしている作家で、手掛けた作品はガーディアン賞やオレンジ賞など権威ある賞に数々ノミネートされています。

本作はリズ・ジェンセンの母の身に起きた悲劇がモデルとなっています。母の弟(リズの叔父)が家族総出で出かけたピクニックの最中に行方不明となり、その捜索中にリズの祖母が崖から転落し命を落としてしまったのだそうです。この母の体験をベースに、リズが物語を膨らませ家族の物語として仕上げたのが本作です。

 悲劇的な実話が元になっている作品ではありますが、物語の内容は決して重たいだけのものではなく、早熟な少年の発言にクスリとさせられたり、親子の絆の物語としてもとても感動的な作品になっています。

 

 【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンをとったのは『ミラーズ』や『ピラニア3D』を手掛けたアレクサンドル・アジャ監督です。 

 アジャ監督と言えば、ゴア描写やスプラッター描写の多いホラー作品を多く手掛けてきた監督ですが、前作『ホーンズ 容疑者と告白の角』(原作『ホーンズ 角』)からファンタジーサスペンスという新境地を開拓し、その卓越した手腕を見せつけてくれました。本作もその系譜にある作品と言えるでしょう。

 監督はヒッチコック作品を意識して本作を作ったそうで、ファムファタルとしてのブロンド美女や、高所から落ち行くカットなどヒッチコック作品(特に『めまい』)に対してのリスペクトも随所に見られました。

 脚本を務めたのは、俳優としても活躍しているマックス・ミンゲラ。本作はもともと『イングリッシュ・ペイシェント』や『コールド・マウンテン』などを手掛けた映画監督である父・アンソニーミンゲラが映画化を熱望していた作品だったのですが、2008年に他界してしまったため、息子であるマックスがその遺志を継いでプロデューサー兼脚本家として実現させた映画になります。アンソニー・ミンゲラ版も見てみたかったですが、その息子が手掛けた作品ということもあって、子供の視点から見た親という要素が原作よりも深淵に描かれていた気がします。

主人公ルイを演じたのは、エイダン・ロングワース君。何か月にもわたるオーディションの末に発掘されたロングワース君は、原作のルイをそのまま現実に移し替えたとしか思えない佇まいで、とんでもない天才子役が見いだされたと思わせてくれる演技力でした。

そして、物語のカギを握るルイの母・ナタリーを演じたのがサラ・ガドンデビッド・クローネンバーグ監督作に出ているイメージの強い女優さんですが、本作でもその魅力は全開です。どこか放っておけない薄幸の美女という、難しい役柄を見事に体現していて感服しました。

 

【私的評価】

88点/100点満点中

 原作の世界観をとても大事にしながら映像化されており、とても好感が持てました。原作に頼り切るだけでなく、映画の独自性も取り込んでいて脚色部分も素晴らしかったです。

勘のいい人であればすぐに真犯人が分かってしまうでしょうが、それでも主人公・ルイの心情の読めなさが物語の推進力となっていて、監督と脚本家の手腕にうならされました。

ビジュアル面も大変素晴らしく、美しさと恐ろしさが同居した映像は見るものを惹き付けます。

 

 

 

以下ネタバレあり

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映画『悪と仮面のルール』と原作小説『悪と仮面のルール』(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は

映画悪と仮面のルールです。f:id:nyaromix:20180121014420j:plain

【あらすじ】

大財閥・久喜家に生まれた文宏は、11歳の時、父親から出生の秘密を知らされる。彼は久喜家に代々伝わる悪の心“邪”を世界に残すための存在として意図的に生み出されたというのである。父は文宏に養女として育てることとなった少女・香織を紹介し「お前は悪に飲み込まれなからばならない」と宣告し、14歳になった時に地獄を見せると告げられる。文宏と香織は共に生活をするうちに惹かれ合うようになるが、14歳が迫ってきたある日、文宏は父が香織を損なおうとしていることに気がつき、香織を守るために父を殺害してしまう。

そして時が経ち大人になった文宏は、整形によって新谷弘一という別人の顔を手に入れ、香織のことを影から守ろうとするのだが、文宏の元にはテログループのメンバーや実の兄の影が近づいていた…

 

【原作】

原作は中村文則さんの同名小説『悪と仮面のルール』です。 

悪と仮面のルール (講談社文庫)

悪と仮面のルール (講談社文庫)

 

 中村文則さんといえば、『土の中の子供』で芥川賞、『掏摸〈スリ〉』で大江健三郎賞を受賞するなど、発表した作品の多くが賞に輝いている天才ベストセラー作家です。

本作は中村さんにとって9作目となる作品で、ウォール・ストリート・ジャーナルの「ベストミステリー10小説」にも選出された傑作小説です。

 今年は中村文則作品の映画化イヤーで、本作を皮切りに『去年の冬、君と別れ』『銃』といった作品たちが公開を控えています。

 

【スタッフ・キャスト】

本作の監督を務めたのはUVERworldドキュメンタリー映画『THE SONG』や伊原剛志主演の短編映画『A LITTLE STEP』などを手掛けた中村哲平監督です。

UVERworld DOCUMENTARY THE SONG(完全生産限定盤) [DVD]

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 中村監督は、元々CMディレクターやミュージックビデオのディレクターとして活躍していた方で、長編の劇映画は本作が初となります。新進気鋭ながら、CM制作などで磨いた画作りには意識の高さが感じられ、これからの活躍が期待される監督です。

脚本を務めたのは『LIAR GAME-再生-』や『ONE PIECE FILM GOLD』などを手掛けた黒岩勉さん。フジテレビ系のドラマや映画の脚本を数多く手掛けている売れっ子クスリプターですが、正直言って本作はあまり脚本を凝ったようには見えませんでした。

 主人公・文宏を演じたのは玉木宏ん。玉木さんはかなり原作を読みこんだとのことで、自分なりの文宏像をしっかり作りこんだそうです。整形直後の文宏を演じたシーンでは、撮影直前に顔に鍼を50本も打ってわざと顔を歪ませたうえで撮影に臨んだという役者魂を見せています。

 

【私的評価】

62点/100点満点中

悪として育てられた男が、罪を背負いながらも愛する人を守るために、必死にもがき苦しみながらも生きようとする物語。

 監督が原作への忠実さをとても意識しているようで、ストーリー、セリフ、舞台設定等ほとんどが原作通りに映像化されています。

 しかし文学的世界でこそ活きる物語を、ほとんどアダプテーションをしないままそのまま映画に置き換えてしまったので、キャラクターの実在感が乏しく説得力に欠ける形になっていました。

文学的文法と映画的文法は違うのだと感じさせてくれる良い例だと思います。

 

 

 

 

 以下ネタバレあり

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当ブログ的2017年公開作品ベスト10

こんにちは、当ブログ管理人の雁丸です。

 

2018年に入って半年が過ぎようとしているのですが、今更ながら当ブログで扱った映画のベスト10を発表しようと思います。

こういうのって年末にやるべきなんでしょうがとりあえず見ていってください。

今回選定した10作品は全て当ブログで扱った作品のみに限らせてもらいました。

 

それでは第10位から…

 

10位

 ダブルミンツ

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映画『ダブルミンツ』と原作漫画『ダブルミンツ』(ネタバレあり)

 中村明日美子先生の同名ボーイズラブ漫画を原作にした本作。原作に忠実でありながら、内田監督の引き算の演出によって映画的行間の多い作品に仕上がっていました。主演2人の演技も素晴らしく、特に田中俊介さんという逸材を知れたのも良かったです。

 この作品(と明日美子先生の過去作として読んだ『同級生』)が、自分にとって初めて読んだBL漫画だったのですが、こんなに面白いものなのか!と新しい扉を開くきっかけになった映画でもあります。(性的思考としての新しい扉ではないです・・・)

 

9位

 『怪物はささやく

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映画『怪物はささやく』と原作小説『怪物はささやく』(ネタバレあり)

カーネギー賞を受賞したシヴォーン・ダウド原案の同名児童小説を J.A.バヨナ監督が映像化した本作。バヨナ監督が得意とする母性愛の物語が原作のテーマ性とぴったりと合致しており、美しくも悲しい親子の物語になっていました。

物語(もとい現実)の不条理さを主人公の少年に突きつける残酷な物語でありながら、それを受け入れる彼の成長に涙が溢れました。

バヨナ監督の次回作は『ジュラシック・ワールド 炎の王国』ですが、そこでも主人公とラプトルの親子関係の物語が描かれそうなので期待しています。

 

8位 

 『夜は短し歩けよ乙女

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 映画『夜は短し歩けよ乙女』と原作小説『夜は短し歩けよ乙女』(ネタバレあり) 

森見登美彦湯浅政明監督が『四畳半神話大系』以来の再タッグを組んだ本作。

 ある種ドラッギーなほど見ていて気持ちのいいアニメーションで、こじらせ男子の恋愛模様を愉快に描いていました。原作では春夏秋冬の4部構成だった内容を一夜の出来事として描くという力業で、ジェットコースタームービーのような印象を受けました。

「人と人との縁」という要素を原作よりも膨らませていて、青春賛歌であり人生参加でもある素晴らしい出来栄えでした。

 

7位 

『愚行録』

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映画『愚行録』(ネタバレあり)

当ブログで扱った記念すべき1本目の作品でもある『愚行録』。

叙述トリックの効いた難しい原作を見事に映像に落とし込んだ素晴らしいアダプテーションがなされていました。

 ひたすら最悪な人間ばかりが出てくるのですが、生きていくためのしたたかさや、自分のポジションを守るためのマウンティングなど、どこか他人事とは思えない人間性の悪さは強く胸に突き刺さります。愚かしい人々が織り成す物語の中で、わずかながら描かれる善性にも心を打たれました。

 

 6位

 『彼女がその名を知らない鳥たち

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 映画『彼女がその名を知らない鳥たち』と原作小説『彼女がその名を知らない鳥たち』(ネタバレありの感想)    

凶悪』の白石和彌監督が手掛けた、イヤミスの女王・沼田まほかるの同名小説の映画化作品。

原作に忠実でありながら、映画的ギミックを活かした見せ方が存分に加えられており、登場人物たちの心情をより克明に描き出していました。原作では冒頭で描かれていた主人公カップルの出会いのシーンを映画ラストに持ってくることで、献身的な愛の物語としての純度も高まっていました。

来年公開される白石監督の『狐狼の血』にも期待値が高まります。

 

5位

パーティで女の子に話しかけるには

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映画『パーティで女の子に話しかけるには』と原作小説『パーティで女の子に話しかけるには』(ネタバレありの感想)

 ニール・ゲイマンのほんの数十ページしかない短編小説をジョン・キャメロン・ミッチェル監督が映画オリジナルの解釈で膨らませ、映像を眺めているだけでも楽しい独創性の高い作品に仕上がっていました。

パンクの精神が周囲に感染していく様は爽快で、エルファニングな殺人的な可愛らしさもたまらないです。

ただのボーイミーツガールのセカイ系映画ではなく、少年少女が不条理な社会のルールに立ち向かうというシビアなストーリーで、パンクだけが生きがいの少年が遥か遠い異星の秩序を変える何ともロマンに満ちた物語でした。

 

4位

エル ELLE

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映画『エル ELLE』と原作小説『Oh...』(ネタバレあり)   

 感情移入や共感性などといった要素を取り払った予想を裏切る展開の連続にしびれました。「こんなひどい暴行を受けた女性は普通はこういう行動をとるだろう」という、無意識に女性を枠にはめて考えている観客の差別意識を逆手に取り、女性の多様な生き方を肯定する女性賛歌的作品でもありました。

ちょっと話は変わりますが、先日のセクハラ問題に対してのカトリーヌ・ドヌーヴの発言も『エル ELLE』っぽいなぁ、と思ったりしました。

 

3位

勝手にふるえてろ

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 映画『勝手にふるえてろ』と原作小説『勝手にふるえてろ』(ネタバレありの感想) 

 昨年末に公開されて、ほぼ決まりかけていた自分のトップ10の3位にまで食い込んできた『勝手にふるえてろ』。

「お前は俺か」とツッコミたくなるほど、主人公ヨシカと同僚の二の振る舞いが過去の自分を見ているかのよう(今現在もそうかもしれない…)で、鑑賞中は心の中を搔き毟られたような感覚になりました。こんなにも幸せになってほしいヒロインは久しぶりです。

映画オリジナルで加えられているシークエンスも胸に突き刺さるもので、大九監督の手腕にも感嘆しました。

 

2位

『花筐 HANAGATAMI』

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映画『花筐/HANAGATAMI』と原作小説『花筐』(ネタバレありの感想)

 御年80歳の大林宣彦監督が檀一雄の短編小説をもとに作り上げた3時間弱の超大作。戦争の悲惨さを訴えるメッセージ性を原作から拡張させ、自由に焦がれる若者たちの儚さが増幅していました。

余命3か月と宣告された中で作り上げたこの映画は“生”への渇望に満ちあふれており、きな臭くなってきた現代の社会情勢の中でこそ作られるべき作品となっています。

ご当地映画としても素晴らしい出来栄えで、唐津のくんち祭りを“権力への反骨精神”の象徴として映し出したのも秀逸でした。

 

1位

『メッセージ』

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映画『メッセージ』と原作小説『あなたの人生の物語』(ネタバレあり)

テッド・チャンの短編SF小説を、今ノリにノッているドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化した本作。複雑難解な原作小説を見事に整理して映像化し、映画的なタイムリミットサスペンスの要素まで盛り込んだ、素晴らしい脚色力を見せつけてくれました。

円環構造を核とした物語の構成も素晴らしく、考察してもしきれないぐらい様々な仕掛けが散りばめられています。

SF映画としては言わずもがなな大傑作ですが、母と子の物語としても完璧な一作だと思います。残酷な運命をも受け入れる母の愛には涙を禁じえませんでした。

ストーリー・映像・音楽どれをとっても超一級の作品でしょう。

 

 

 

以上のような結果となりました。

毎回レビューのたびに100点満点で個人的な評価をつけていますが、今回のランキングは付けた点数に応じて順位付けしているわけではないです。点数の低い作品が、高い作品よりも上位に来ていたりもしますが、気にしないでください。まぁ映画の評価って時価みたいなものじゃないですか(開き直り)

こうやって自分の過去のレビューを振り返ってみると、悪し様に貶している作品はほとんどないような気がします。おそらく、質の良い原作が映像化されているということと、原作をあらかじめ読むと映画の製作者のやりたいことの意図が見えてくるからだと思います。

あまり辛口のコメントが得意ではない当ブログですが、ぬるめのレビューが好きな人はこれからも是非お付き合いください。

これまでのレビューは、誰に気を使っているのか、堅苦しい文章になって面白みに欠けていたので、これからはもう少し砕けた感じでレビューを書いていこうと思います。

 

今年もよろしくお願いします(今更)。

映画『勝手にふるえてろ』と原作小説『勝手にふるえてろ』(ネタバレありの感想)

今回紹介する作品は

映画勝手にふるえてろです。

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【あらすじ】

24歳のOLヨシカは、中学時代から想いを寄せている“イチ”に今もなお片思いを続けている。叶わぬ恋だと薄々感じながらもイチへの気持ちに折り合いをつけられずにいるヨシカだが、そんな彼女同じ職場で働く“ニ”がアプローチをかけてき、ついにヨシカは人生初となる告白を受ける。イチへの思いを断ち切れていないヨシカはニへの返事を先延ばすが、ある人自宅でボヤ騒ぎを起こしたことで人間いつ死ぬかわからないことに気が付き、イチと再会するために画策して行くのだった…

 

【原作】

原作は綿矢りささんの同名小説『勝手にふるえてろ』です。

勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ (文春文庫)

 

 本作は2010年に文藝春秋の『文學界』に掲載された作品で、その年の第27回織田作之助賞で候補作となった作品です。

 綿矢さんといえば、『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞したことで有名な人気作家ですが、意外にも映画化された作品は少なく、本作がデビュー作『インストール』に次いでニ作目の映画化作品となります。(『蹴りたい背中』のドラマ版などはありますが)

小説『勝手にふるえてろ』は、その前作『夢を与える』から3年の時を経て発刊された作品です。その3年の間に綿矢さんは大失恋を経験していたそうで、一時は筆を折る寸前までいっていたとのことです。本作にはその時期の綿矢さんの実らない恋愛に対しての怒りが込められた作品になっています。

 

【スタッフ・キャスト】

本作のメガホンを取ったのは『恋するマドリ』や『でーれーガールズ』を手掛けた大九明子監督です。

でーれーガールズ [DVD]

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 大九監督は、現代女性の心理を的確に捉えた映画を得意としており、本作もその一つと言えます。

 監督は芸能プロダクション人力舎の芸人養成学校・スクールJCAの一期生という経歴を持っており、磨き上げられた笑いのセンスで、本作でもキレッキレのコメディ演出が炸裂していました。

  主演を務めたのは松岡茉優さん。見る前はこんなに可愛い人が非モテ人間なんか演じられるのか?と思ったのですが、実際に見てみると松岡さんの所作は完全に非モテ人間のそれで、性別は違いますが自分を見ているようでした。

 ヒロインが想いを寄せる男の子イチを演じたのは『君の膵臓をたべたい』の北村匠海さん。感情をほとんど露わにしたい演技で、ミステリアスさを醸し出していて、こりゃモテるわと思える説得力が凄かったです。

そして、ヨシカにアプローチを仕掛ける男・ニを演じたのは『色即ぜねれーしょん』の渡辺大さん。不器用すぎて、振る舞いが若干気持ち悪くなっちゃってる様は、こちらも自分を見ているようで悶えてしまいました。

 

【私的評価】

95点/100点満点中

 対人関係が上手く築けないヨシカの様子は、コミュニケーション能力の低い自分には他人事とは思えず、彼女の不器用な振る舞いすべてがグサグサと突き刺さってきました。

原作よりもヒロインの孤独を強調した脚本は、ヨシカの切なさを喚起し、無様でみじめながらもそれでも生きていく彼女の姿勢に心を打たれました。

個性的なキャラクターが多い作品ですが、特に“二”の空気の読めなさは、自分にも心当たりがある部分があるので、面白くもあり、精神的ダメージが大きくもありました。

 

 

 

 

以下ネタバレあり

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映画『花筐/HANAGATAMI』と原作小説『花筐』(ネタバレありの感想)

今回レビューする作品は

映画『花筐/HANAGATAMI』です。

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【あらすじ】

アムステルダムに暮らす両親と離れて暮らす榊山は、佐賀県唐津市に暮らす叔母・圭子の元に身を寄せていた。唐津浜大学予科への入学を果たした榊山は、清廉な美少年・鵜飼と、冷静で朴訥な青年・吉良と出会い交友を深めていく。榊山は圭子の元で暮らす従妹の美那子に思いを寄せており、美那の友達であるあきねと千歳とも知り合いになる。やがて、彼らの周りでは戦争の足音が近づき、彼らの青春をも巻き込んでいくのであった…

 

【原作】

原作は檀一雄の短編小説『花筐』です。 

花 筐 (光文社文庫)

花 筐 (光文社文庫)

 

 小説『花筐』はもともと長編小説として執筆される予定だったのですが、『夕張胡亭塾景観』が芥川賞の候補作になったことから次作の執筆を出版社から急かされ、短編として仕上げた作品だそうです。檀にとっては不本意だったかもしれませんが、塞翁が馬と言いましょうか短編小説になったことで物語に想像の余地が沢山ある行間の多い作品に仕上がっています

本作は三島由紀夫も愛読した小説だそうで、映画の中でもそのことに触れられています。大林監督は作中に登場する青年・吉良に三島由紀夫の面影を想起するそうで、映画を観ると確かに吉良の刹那的な生き方が三島のように見えます。

 

【スタッフ・キャスト】

 本作のメガホンを取ったのは巨匠・大林宣彦監督です。

 大林監督のフィルモグラフィ的にはこの作品は『この空の花-長岡花火物語』と『野のなななのか』に次ぐ戦争三部作の一作という位置づけになります。小説『花筐』の映画化は監督の終生の夢だったそうで、商業映画デビュー作『ハウス/HOUSE』を作る以前から温めていた幻の脚本を40年の時を経て再び起したとのことです。

大林監督は本作の撮影中に、医者からステージ4の末期の肺がんであることを知らされ、余命3か月と宣告されながらもこの映画を作り上げました。監督が自身の近くに横たわる死を感じながら作った本作は生への渇望に満ちており、自らの不幸をも芸術へと昇華する映画人としての矜持を見ました。

本作の役者陣には極めて突飛なキャスティングや演技の付け方がなされており、初めは驚きが強いのですが、次第にこの人でなければこの役は難しかったのではないかと思わされていきます。

主人公・榊山を演じたのは窪塚俊介さん。原作の榊山よりも、人としての未熟さを感じさせるキャラクター造形にしており、幼児性を強めた演技は、榊山の何者でもなさを分かりやすく表していました。

朴訥な青年・吉良を演じたのは長塚圭史さん。現在42歳の長塚さんが、年にして17,8才の吉良を演じるというかなり大胆なキャスティングですが、人間模様を俯瞰で眺め、常に冷静な吉良を体現できるのは、若い役者よりも長塚さんのような落ち着きのある成人だなと思わせてくれる演技力でした。

美青年・鵜飼を演じたのは満島真之介さん。満島さんは他の役者陣と比べると違和感のないキャスティングで、肉体的にも精神的にも鵜飼を体現していました。

 

【私的評価】

96点/100点満点中

 檀一雄の短編小説が元になっている作品ですが、戦時下という時代背景を原作よりも前面に押し出すことで、メッセージ性がかなり強まっています。

 原作の重要なポイントである若者たちの”自由”と"生"への渇望をしっかりと捉えながら、その裏にある戦争の影を映し出すことで、彼らの生がより刹那的で切ないものになっていました。

大林監督が、巨匠・黒澤明から言われたという「映画も果実と同じでそれが実るべき旬がある」という言葉のとおり、国際情勢に暗雲が立ち込める今こそ作られるべき映画でした。

 

 

 

 以下ネタバレあり

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